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夏 光一郎
夏 光一郎
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ドンキホーテと風車

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ドンキホーテと風車

鹿児島錦江高原ホテルのプロサンプション風車

桜島の噴煙とホテル

二〇一〇年八月二十三日。晴れ
十一時四十五分、セントレア、予定通り日本航空で離陸。機内はやや空席が目立つ。飛行機に乗ろうとタラップを歩いていると、女性スタッフが話しかけてくる。
「ご旅行ですか?」
「ええ、いや半分遊びなんですが。一応仕事です」
「ご苦労様です」
「ビジネスでも旅行ですね。すいません」
「種子島へでも?」
「ならいいんですけど。鹿児島の錦江高原というところへ」
「高原ですか。いいですね」
「明日は、九州新幹線で博多へ行って下関まで。ビジネスです」
「後はお帰りですか?」
「ええ。山陽新幹線で」
「いい旅ですね」
「たまたま、私の誕生日なので」
「それは、おめでとうございます」
「ありがとうございます。今日、そう言ってくれたのは、あなただけです」
そんな会話をして席について、離陸を待っていると、女性が後ろにいるので、軽く会釈をした。JALも経営の立て直しで大変なんだなあと思っていた。
機は予定の時刻に離陸した。途中コーヒーが出て、本を読んでいると、なんとさっきの女性スタッフが、
「教は誕生日、おめでとうございます。私たちスタッフ一同からの気持ちです」
 と、いってグッズを持ってきてくれた。あわてた私は、
「ありがとうございます。なんだか要求したみたいで。恐縮です」
 と、いうのが精一杯だった。でも、いい旅立ちだなと思った。「誕生日おめでとうございます」という手書きのサイン入りの絵葉書、メモ帳、飴などが入っていた。
 機は、予定通り十二時五十五分鹿児島空港に着いた。鹿児島空港は、晴れ。ムンとするような暑さだ。お盆休みを過ぎたせいか、人影はまばらだ。どこの空港もそうだが、空港は市街地から外れたところにあるので、アクセスが大事だ。アクセスの中心はバスが担っている。その足で鹿児島市の中心を目指す。バスは、高速道路へ入り、市街地を目指す。約四十分で鹿児島中央駅へ着く。県庁所在都市としての風格を備えた駅前だ。以前に、知覧町を訪れたときには、鉄道で鹿児島駅を利用したのだが、今は完全に鹿児島中央駅に中心が移っている。
 九州新幹線のターミナルビルの上には巨大な観覧車が回っている。駅に観覧車があるのは初めて見た。明日の下関までの新幹線切符を買い、駅前をしばらく散策する。やはり目に付いたのが、市電(チンチン電車)だ。一昔前の旧式な電車ではなく、モダンなスタイルと色の路面電車だ。速度も昔のより二倍くらい早い。二両連結になっているようだ。軌道には芝生が植えられており、ただ走ればいいというものではないようだ。二十年前に見たのと同じ桜島が見える。二十年前に来たときは、火山が活発になっていて、噴煙の灰が車の屋根や道路に積もっていたのを覚えている。県庁の案内で宿泊施設に泊まり、翌日知覧町の武家屋敷・特攻記念会館を視察したのが、つい昨日のようだ。
 今回は風力発電の調査で来ている。錦江高原ホテル 〒891-0144 鹿児島県鹿児島市下福元町3273にあるホテルだ。ホテルに電話してシャトルバスの停留場を聞くと、西口のJRホテルの前あたりに着くと言うことだった。マイクロバスには、私とあと一組の家族連れが乗り、一路錦江高原を目指す。市街地を見下ろしながら、バスは東方面の山の斜面を登っていく。道路が「指宿スカイライン」へ入るところから、錦江高原ホテルの風車が見えてきた。勢いよく回転している。マイクロバスの説明では、「錦江高原ホテルのランドマーク」ということだった。
 車はホテルの正面玄関に着いた。西側の山の頂上の斜面にホテルとゴルフ場の管理棟がある。山の斜面がゴルフ場、頂上に風車が聳え立っている。風の体感はないものの、風車は勢いよく回転している。各地に風車を見に行くと、その風車が回転している確率はかなり低い。理由は故障、事故、メンテナンスとさまざまだが、風車が止まっていたのでは、せっかく来た甲斐がない。JALスタッフの親切な誕生祝といい、風車の回転といい、いい旅行になりそうな感触を得た。チェックインを済ませ、白尾さんに面会、挨拶を済ませた。名刺を渡し、
「明日はよろしく」
と、いうと、
「先生は東海大学ですか?」
 と、聞く。
「いえ、名前は似ていますが、違います」
 と、答える。たしか、高校野球夏の甲子園大会で、鹿児島実業高校が東海大相模と対戦して破れたのではなかったか。うちの大学は紛らわしい名前をつけたものだ。早速風呂をいただく。風呂自体は温泉観光ホテルとしてはありふれたものだ。最近のお風呂は凝っているところが多く、温泉プールに各種のお風呂、サウナを用意した温泉は珍しくない。その分消費電力と重油の消費は大きくなっているだろう。当錦江高原ホテルは風力発電による電力で、ホテルの消費電力をまかなっているのだ。その調査にやってきた。風呂はホテルの地下一階部分にあり、錦江湾(鹿児島湾)の方を向いている。窓がパノラマ風にとってあり、男性風呂からは、鹿児島市街地と遠く桜島を含む薩摩半島の東側一帯を望むことができる。
 桜島の御岳からは、噴煙が上がっているように見えるが定かではない。山の上には雲がかかっており、噴煙か雲かの違いがよくわからない。昼過ぎに空港へ降り立ち、喫茶店で軽く食事をしたが、建物が微妙に揺れているのに気づいた。微動だ。おそらく火山活動による揺れだろう。歩いていると微動は感じない。今から二十年ほど前に、当時の農水省の案内で鹿児島を訪問したことがある。止まった宿は覚えていないが、同じく市内の山の中だったと思う。知覧町を訪問し、武家屋敷(伝統的建造物保存郡)と特攻機年間を見学したのをつい昨日のように思い出すが、当時は風力発電などは話題にも上らなかった。隔日の感がある。
 食事も同じく鹿児島市内と薩摩半島の錦江湾を望む位置にあり、夕暮れから夜景に変わる景色を堪能しながら舌鼓を打つ。寝るまでに調査の概要をパソコンに記したいので、アルコールもほどほどにして、部屋へ戻るが、やはり出るのは疲れだ。このところの猛暑で連日三十五度を超える暑さだ。鹿児島駅で多少ふらついたことを思い出し、作業はほどほどにしてベッドに横になると、気がついたのが深夜十二時過ぎ。部屋の風呂に入り、再びパソコンに向かっている。
 風は、ホテルについて夕方(四時半過ぎ)は、海から山へ向かって吹いていた。たぶん南東の風だろう。風車は目測でホテルから百五十メートルくらいの位置にあり、山の頂上に立っているので、音をさえぎるものが何もない。ホテルは風車の風上にある。音はぜんぜん聞こえない。問題は人が寝静まった夜だ。
作品名:ドンキホーテと風車 作家名:夏 光一郎