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本庄ましろ(公夏)
本庄ましろ(公夏)
novelistID. 5727
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Estate.

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Date 7/31


 夏空。
 入道雲、突然の大雨。
 波の音が、耳に優しかった。
 温い雨が海面に溶ける様を、二人、ただ見つめていた。
 サキと暮らし始めて、気づけば一月が過ぎていた。
「雨、降ってきちゃったねえ」
「ン。でも、夕立だろ?」
「多分。この季節だし、仕方ないんだけどさ」
 サキが苦笑いを向けてきた。
 海の上の雲は真っ黒で、微かに雷鳴が聞こえる。
「失敗したー。近所だからって、油断した」
「ああ。でも、コレだけ暑けりゃ風邪ひくこともないだろ。夕立なら雨もすぐ上がるよ」
 ひとつ頷く。
 沈黙が下りる。
 決してそれは、気まずい沈黙ではなかった。
 雨音。
 微かな雷鳴。
 波。
 不思議と静かな空気の中、俺たちは、どちらも口を開くことなく黙っていた。
「ねえ、真宏」
「ん?」
「嫌だったらこたえなくていい。でも、聞いて良い?」
「何?」
「真宏は、あの家を借りるときの条件として、“静かで海のそばで1人きりになれる場所”って、言ったんだよね?」
「ああ」
「……一人きりになれる場所、っていう条件、俺、ちょっと気になった」
 その話か、と少しだけ俺は笑った。
「それは何?俺が1人になりたいっていった理由が、聞きたいの」
「……嫌じゃないなら」
「別に嫌じゃないよ。……そうだなぁ。……ひとりじゃないんだってことを、知りたかったのかもな」
 あまり考えずに口に出した言葉だった。だが、それは言葉にしてから、突然はっきりした形を持った。
「ひとり、?」
「そう。サキは変っていうかもしれないけどね。街中に居るとさ。時々、どうしようもなく孤独になることがあるんだよ」
「……それは、家族や友達と居ても?」
「ン。家族も友達も、すごく大事だけどね。そういうのとは全然別のところで、どうしようもなく孤独を感じることがあるんだよな、不思議と。だから、本当に一人きりになったら、感じなくなるかなーって思ったんだ、多分」
 本当に一人きりになれば、“独り”ではないと、気づけるかもしれないと。どこかそんな風に思っていたのだと気づいた。
「なら、俺は邪魔だったんじゃない?」
 思わず笑った。
 俺がサキの立場だったとしても、同じ質問をぶつけていただろう。
「信じるかどうかはサキの自由だけどさ。俺はお前の事を邪魔だとか思ったことは一度もないよ」
「本当?」
「ここで嘘を吐いたりはしない。もっと言えば、ここで嘘ついても俺にメリットないでしょ」
「ン。確かに」
 子供のようで、そうではないサキ。
 他にも言い様はあっただろうに、わざと“メリット”などという言葉を選んだのは、それを確かめたかったからかもしれない。
「……そう。でも、そっかあ」
「ン?」
「独りになりたいって思うほどの孤独を、俺は知らないから。真宏は、……それを知ってるんだね」
 ふと、サキは目線を遠くへ放った。
 雨が上がりかけた空。

 少し遠くで、まだ雷鳴が響いていた。
作品名:Estate. 作家名:本庄ましろ(公夏)