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人間屑シリーズ

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 嘘まみれの俺の高校生活。だけどその中で唯一の真実があるとすれば、それは――それは件の女子大生のモデルだった。俺より二年早く高校を卒業していった先輩。
 俺は、その先輩の事が好きだった。先輩にまた会いたくて、同じ大学を受験する為に必死に勉強した。大学に入学すると、すぐに先輩と同じサークルに入った。先輩はそんな俺を見て笑った。優しく、笑ってくれた。

 外に出る気になったら、真っ先に先輩に会いたくなった。
 俺なんかが電話しても迷惑なだけだろう。いや、そもそも電話番号すら変わっているかもしれない。でも、いいじゃないか。何も躊躇う事は無い。恥ずかしい事も無い。俺はもう、終わる人間なんだから。
 俺は発信ボタンを押した。トゥルルルルという電話の呼び出し音がひどく懐かしい。トゥルルルルという音に耳を傾けていると、ふいに昔の事を思い出した。
 そういえば一度だけ、一人暮らしの先輩の家にサークル仲間と行った事があった。後で知った事だが、そいつと先輩は付き合ってたらしい。
 目の前で突如始まった先輩とそいつのセックス。「お前も混ざれよ」とか言われたけど、俺には何も出来なかった。先輩は、ただただ男に身を任せて、俺の目の前で嬌声を上げていた。「俺は見てるだけでいいですよ」とか、余裕のある男っぷりを何故かアピールしていた。
 先輩が可哀想じゃないですか! と抗議する程、先輩は嫌がってはいなかったし、何より先輩のそういう姿に思わず見入ってしまっていた。
 何しろ俺は童貞で、生身の女は初めてで、しかもそれがあの先輩だったワケで。よく三文小説なんかで「痛いほど君の事が好きだ!」とか言うが、アレは心が痛いワケでも脳が痛いワケでも無く、下半身そのものが痛いんだな、とその時まさに痛感した。

 苦い過去に苦笑していてもなお、トゥルルルルという呼び出し音だけが続いている。……出ない。それもそうか……。アレからもう何年だ? トゥルルルルという虚しい音。だけど番号が生きていた事だけでも、奇跡だよな。そう思ったその時、トゥルッという小気味の良い音共に「はい」という声が耳に届く。繋がった!
「先輩ですか? 俺、大学の後輩の……」
 思わず声が震えそうになったが、それを抑え込んで一気に自分の名前を告げた。俺の名前を聞くと、先輩はすぐに「ひさしぶりー」なんて言って笑ってくれた。先輩の声は昔のままで可愛くて、そしてあの頃のように明るく「暇だったらお茶でもする〜?」と言ってくれる。こんな俺にも、いつでも優しい唯一の存在。
 その存在と人生の終わりに何を話そうというのか? 自分でも目的は分からなかったが、高鳴り始めた胸に気持ち良く心を委ねたまま、俺は力を込めて外へと続く扉を開けた。
作品名:人間屑シリーズ 作家名:有馬音文