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A Groundless Sense(2)

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 泉子は身をよじって笑みを浮かべた。
「そりゃあ、あんな展開の後に、同い年くらいの女の子に助けられるなんて……」
「ライ……じゃなくて、カツシがその子を呼び寄せたんだよ。でなければ、そこのメンヘラっぽい……」
「ミナト!」
 色白の少女はすっかりご立腹だった。その代わり血色はますます良くなっていた。
「そうそう、ミナトちゃんね。絶対、生きて帰ってやるって、思ってたでしょ?」
「それは……ないよ」
 ミナトはしぼんだ。
 カツシはぼそっと言った。
「後ろ向きだったもんな。いつも通り」
「ひとこと多い!」
 ミナトはカツシの肩を突いた。
 泉子は笑った。
「きっとまだ、自分とちゃんと向き合ってないんだよ。あたしが思うに、ミナトちゃんは心の底では……」
 ミナトは大きな声で遮った。
「あ、あなたはどうなのよ」
「あたし? あたしもダメね。美少女活動家でもなければ、ヒーラーでもない」
「ひとこと多くない?」
「いちいち細かいと、胃を悪くして痩せちゃうよ?」
「大きなお世話!」
 ミナトはそっぽを向いた。
 やれやれ……カツシはため息をついた。二人の相性はよほど悪いに違いない。それでも泉子は、ミナトの回復には欠かせない人物と思われた。
「胃をやられないように、しないとな」
 カツシは自分の腹をさすった。
 泉子は胸を張って言った。
「ま、こんなんでも縁は縁だし、しょうがないから、かくまってあげる」
「冗談じゃな……もぐっ!?」
 カツシはミナトの口を片手でおさえると、苦笑いを送った。
「お世話になります、なります」


 泉子の自宅は居住区の、上下からみても左右からみてもちょうど中ほどの、三十一階にあった。構造はカツシの家と同じ3LDKだ。母親は今、医者に見捨てられた重病人を癒すため、別の層へ出かけていた。隠れヒーラーのため診察室などはなく、仕事は往診のみだった。
 居間やキッチンを見た限りでは、特別な感じはしなかった。それは泉子の部屋も同じだ。
 白装束に着替えた泉子は、ミナトをベッドに寝かせ、なんとも言えぬ手つきでヒーリングの儀式を行っていた。
 変わっているのは泉子の格好くらいのものだが、やはり女の子の部屋というのは、彩りというか匂いというか……ある意味特別だった。
 泉子は儀式を終えると、キッと振り返った。
「こら! ふんふんしながら、女の子の部屋を見ないの」
 ミナトの症状が落ち着いたところで、三人は今後のことについて話し合った。
 さっきまでケンカしていた女二人が、ベッドの上で真剣に顔を突き合わせている。女はよくわからない生き物だと、客なのに床に座らされたカツシは思った。
「ずっとお世話になってるわけにもいかないし……やっぱりKY区域の謎を解くしかないようね」
 ミナトは言った。
「そんなに死に急がなくてもいいじゃない。何年でもいたらいいよ」
 泉子は言った。
「だって私は……」
「諸行無常」
「は?」
「どんなことでも、同じ状態のまんまはないってことよ。今はどうしていいかわからなくても、来月にはひらめくかもしれない」
「どうせまた、偉大なママの受け売りでしょ?」
「バレたか」
 泉子は頭をかいた。
 父親については、泉子は多くは語ろうとしなかった。会った記憶もないのだという。
 白ずくめの少女はつづけた。
「KY区域はひとまず置いとこうよ。あそこって常管の管轄だし、多勢に無勢だよ」
「それなら、どこにいたって同じことでしょ?」
 ミナトは言った。
 カツシとミナトは罪を償わない限り、どこまでいっても第一級の常識破りなのだ。逃げるにしても、探検するにしても、常管の目の届かない場所を探す必要があった。
 カツシは言った。
「世界はKANTOとSAITOの二つしかないのに、KY区域を越える手がダメなら、どこに行けっていうんだよ」
「これは噂で聞いたんだけど……」泉子は声をひそめた。「例のSAITOを騒がせてるテロ少女って、忘れられた世界『KYUTO(キュートー)』からやってきたらしいのよ。その子なら何か知ってるんじゃないかな」
 カツシは驚きを隠せなかった。
「KYUTOなんて、もうずっと前に閉鎖された廃墟だろ? 空気も水も止まって、とっくに人が住めなくなってるっていうし……」
「公の記録ではそうかもね。でもあそこって、ここと同じ規模の世界だったんだよ? きっと何か生き残るための秘密があったのよ」
「秘密って?」
「それは」泉子は口ごもった。「たとえばテロ少女が、その、実は、ロボットだったとか……」
 ミナトはこらえるように笑った。
「まるで男子の発想ね」
 カツシはミナトに一瞥をくれてから言った。
「仮にそうだとして、どうやってSAITOへ侵入したんだよ」 
 KYUTO閉鎖とともに、シャトル路線も廃止となった。二つの世界を結ぶものはもはや存在しないというのが常識だ。
「常識に縛られてるぞ、少年」
「ほほう。じゃ、非常識情報を持ってるんだな?」
「ごめん」泉子は手を合わせた。「ない」
 ともかく、カツシたちを救った少女と、コンタクトを取ってみるしかないようだ。
 その後、泉子の母親から電話があった。施術が長引くから家事よろしく、とのこと。これには一週間以上帰らない、というもう一つのメッセージが含まれていた。
 カツシは一つ屋根の下、年頃の女二人と暮らすことになった。
 第一級常識破りの逃亡者、ということ忘れてしまうくらい、うかれた気分だった。なんだかんだいっても、カツシは男子だった。
 だが、幸せな時間は長くはつづかなかった。


 7


 カツシが脱衣所で初めて泉子にぶたれた翌日、事件は起こった。
 SAITO第一層で爆破事件があったと、昼のTVニュースが伝えていた。犯人は公表されていないが、カツシたちはピンときた。
 きっとアイツだ。
 岸和田宅は一気に慌ただしくなった。
 泉子は目立たぬよう地味めのワンピースに着替える。
 カツシは面が割れているため、伊達メガネを外し、泉子母の服を借りて女装した。Lサイズの者がMを着ても、それほど違和感はなかった。ひげを剃ってメイクしてウィッグをつけると、意外にイケた。
 泉子は鏡台のミラーを見ながら言った。
「へぇ、女装のコンテストとか出れるかも?」
 カツシはまんざらでもない顔で言った。
「ああいうのは、心も女に近づけないとな」
「じゃあ、シルクのパンツはいてみる? ママのだけど」
「はくか!」


 ミナトは体調がまだ万全ではなく、部屋に残って情報係を務めることになった。
 カツシは出かける前、墨田千江から奪った拳銃を、ベッドに腰かけたミナトに手渡した。
「常管が探しにきたら、それで応戦しろよ」
 ミナトは黒光りする自動拳銃(オートマチック)を見つめ、やがて顔を上げた。
「私を撃っちゃ、ダメ?」
「俺を困らせるな」
「はぁい」
「じゃあ行ってくる」
 カツシが背中を向けたときだった。
 銃声。
「!」
 カツシは一瞬、息ができなかった。
 おそるおそる振り返る。
「ご、ごめん。変なとこ押しちゃったみたい」
作品名:A Groundless Sense(2) 作家名:あずまや