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涼音

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きりりんころん、きりりんころん。
きりりん、ころん、きりりん、ころん。

宵に似た黒髪に、しゃんと赤のべっこう玉を飾り、無垢な姿で凛と歩くあなた。
あの男のもとで、女になり、母になるあなた。
あなたが私の姉さんでなくなるのは耐えられない、耐えられそうにない。

きりりんころん、きりりんころん。
きりりん、ころん、きりりん、ころん。

「与吉」
姉さんは歩みをとめ、後ろを歩く私にこう言いました。
「嫁ぐ相手に、私は恥じない女かね」
「ええ」
私は、はっきりと答えました。
「綺麗です、姉さん」
「そうかい」
姉さんは満足そうに答えました。
「与吉」
「はい」
「私は、お前に恥じない姉だったかい」
「ええ」
今度は、先ほどよりも強い声で答えました。
「優しくて、強くて、自慢の姉です」
「そうかい」
姉さんはからりと笑いました。
「私はね、お前の憧れであり続けたいのさ。お前が女として生きられない分、私は誰よりも女でありたいからね」
男として育てられ、男として生きて行く私。
私がみじめでないのは、姉さんのおかげです。
私が自らを殺めないのは、姉さんが私の分まで女として生きてくれるからなのです。
女であるのに男として生まれてきてしまった私。
その私を守り、私を理解してくれた唯一人の家族。

きりりんころん、きりりんころん。
きりりんころん、きりりんころん。

「おめでとう、姉さん」
「ありがとう、与吉」

晴れ渡る空、姉さんは凛と歩き、嫁いでいく。
その後ろで、私は泣きながらついてゆく。
幼き日と同じように。
年老いても、変わらぬように、と。

きりりん、ころん、きりりん、ころん。
きりりん、ころん、きりりん、ころん。








作品名:涼音 作家名:高市よみ