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南の島の星降りて

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下北沢の真夜中で


なかなか、手を離すきっかけがなくて困っていた。
マスターがソーセージと生ハムの盛り合わせみたいなのを持ってきて耳元でささやいた。
「麗華、いい子だけど甘えん坊だぞ。しらないぞー」
マジで付き合ってるのを信じているみたいだった。
「あー。変なことを劉ちゃんに言わないでねーなんか、今いったでしょ?マスター?」
「いや、いい女、手に入れたわ!って言っただけだってば・・」
言いながら、マスターは逃げていった。
「ねぇねぇ。なんて言ったのよ」
俺の手首に絡んでいた手に力を入れて麗華さんは聞いてきた。
困ったけど、そのまま言ってみた・
「麗華は甘えん坊だから・・うーんとなんだっけかな・・」
「わーあいつ」
マスターのほうを麗華さんは睨んでいた。
「俺の腕なんか掴んでグラス持ってるからですよ」
「え。あ。いいじゃん。彼女なんだから・・」
ご機嫌な麗華さんだった。ちょっと、酔っちゃたかなーって思っていた。

握られていた手をちょと話してトイレに立った。
テーブルに戻る時にカウンターの横にいたマスターに話しかけた。
「信じちゃだめですよ。麗華さんとは付き合ってないですからね・・冗談ですから。いつも一緒にくる子が彼女ですからね・・俺の。誤解されると後で困るから・・」
「麗華はそんな冗談言わないぞ・・好きなんだろう。お前のことたぶん・・お前に彼女がいるの知ってるんだろ。だから、遠慮してるんだわ。そんな子だぞ。彼女と別れて私と付き合ってとは言わないな・・麗華は」
なんか冷静なマスターで気持ち悪かった。
「いやー、それはないですよ。前の彼のことが今でも好きなような気がしますけど」
「隼人か?それ?」
タバコを吸いながら聞いてきた。
「ここにも良く来たんじゃないんですか・・・俺、海でよくしてもらってるから・・海でも知らない人が見たら隼人さんと麗華さんはどう見ても彼女と彼氏ですから・・」
薄暗い店の中の煙の中でマスターはちょっと遠くを見ながら答えた。
「ちょっと俺の口からはな・・いろいろあるんだろう。麗華も」
言いづらそうだった。
「ま、ゆっくりしていきな。彼女には黙っててやるから・・」
マスターはニヤって笑っていた。

席の麗華さんを見ると、こっちを見ていたらしく目があった。
あわてて席の前に立つと
「なにを話していたのよー」
「いや、田舎の話ですよ」
「ウソばっかり。どうせ私のことでしょう。悪口だわー」
ちょっとすねていた。初めてみるような麗華さんだった。イメージじゃなかった。
「ねー劉ちゃん、隣に座ってよ。こっちの奥ね」
指差した方は壁側の席だった。ちょっとそれは・・って思った。
「いいから、早く座りなさい」
座ると、麗華さんの体に触れる距離だった。
「さ、飲もう。まだ時間あるから・・」
グラスを持って麗華さんはご機嫌だった。
腕を握ることはなかったけれど、体はなんか俺に持たれかけてきた。
ウイスキーの匂いと麗華さんの甘い香りがただよっていた。
いい香りだった。

思い切って聞いてみた。
「隼人さんとはなんで別れたんですか・・」
麗華さんの顔がちょっと険しくなった。
「ごめんさい。いいです、すいません」
「いいわよ。聞きたいでしょ?」
ウイスキーのグラスを飲み干して話し出した。
「結婚しようか?なんて言うからよ・・隼人が・・それで、別れたのよ。ダメなのよ。それは・・隼人も私も・・」
「なんでですか?」
ちょっと、無神経かな・・って思ったけど聞いていた。
「私の家、医者だって知ってる?」
知っていた。大きな総合病院らしかった。
「隼人の家は建設会社なのも知ってる?それも長男なのよ。だから結婚なんて無理なのよ。それを、結婚しようなんて・・言うから・・もうダメなのよ。それだけよ」
返事に困った。
「そんなことがあったのよ・・・」
遠くを見ながらつぶやくような麗華さんだった。
「バカなのよ・・結婚なんて言わなきゃずーっと今でも付き合ってるのに・・」
言いながら麗華さんの顔が近づいていた。
目に涙が浮かんでいるような気がした。
「劉って、3年前の隼人に似てるわ。雰囲気がそっくり・・」
目の前に麗華さんの唇があった。
知らない間に麗華さんの柔らかな唇は俺の口をふさいでいた。
静かに長い時間だけが過ぎた。

麗華さんは 3年前の隼人さんにキスをしてるんだろうな・・って思っていた。それならいいと思っていた。
唇を離すと麗華さんはグラスに水割りを作っていた。片手は俺の腕を掴んでいた。
酔った麗華さんは、マスターの言うとおり甘えん坊のようだった。

作品名:南の島の星降りて 作家名:森脇劉生