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南の島の星降りて

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夜のマンションは泣き出して


歩きながら話したわけじゃなかったけど、マンションまで時間がかかっていた。
「ごめんね、けっこう歩いちゃったね・・ここだけど」
「わ、でっかい・・」
びっくりしていた。ロビーを過ぎてエレベーターに乗り込んで部屋にあがりこんだ。久々の兄貴の部屋だったけど、やっぱり、綺麗にかたずいていた。
「おじゃましまーす」
夏樹は、なんか、ゆっくりゆっくり部屋に上がりこんできた。
「ここ、座っていいよ」
「わー。真っ赤なソファーだ」
冷蔵庫を開けると、缶ビールが数本入っていたので、コップと一緒に夏樹の前にさしだした。
「わー、歩いて喉渇いちゃった。劉はもう飲まないの・・」
「あ、俺、もういいわ・・」
「じゃ、一人でご馳走になります」
いいながら、もう飲んでいた。俺は、缶コーヒーがあったのでそれに氷を入れて飲んでいた。

「劉は、彼女とはどうなの・・」
「どうっていううか・・うーん・・相変わらずだけど・・」
「そっかぁ。仲よさそうだもんね・・高校の同級生だっけ・・」
「うん」
夏樹は立ち上がってグラスを持ちながら窓から見える新宿の夜景を見ているようだった。
「隼人さんとは・・だめか・・」
聞いてみた。
「うーん。そりゃ、かっこいいし、好きなんだけど、ちょっと違うんだよね・・なにかがさ・・たぶん、向こうが私じゃなくてもいいんだと思うんだよね」
「夏樹も隼人さんじゃなくてもいいわけ・・」
「そりゃ、最初はちがったんだけどね・・今はそうかな・・酔ってるから言ってるんじゃないからね」
ずっと、背中を俺に向けて窓際に立っていた。
「それとさ、さっき俺に、好きかって聞いたのは関係あるの・・」
まだ、背中を向けていた。酔ってはいるのだろうが夜景をバックにした夏樹は凛としていた。
「ごめんね、変なこと聞いちゃったね・・さっき」
「いや。いいんだ・・」
もう、俺から話を振るのはやめようと思った。

静かに時が動いていた。
夏樹は振り返ってテーブルにまだ残っていた缶ビールから開いたグラスにビールをそそいだ。
「劉が私のことを好きだって言ってくれたら、隼人に、劉と付き合うって言おうかと思ってた。ずっと勝手に考えてた・・・」
目の前に立って、座り込んで俺を見ながら、でも心の中では遠くを見ている夏樹が小さな声で話しかけた。
立ち上がって手を伸ばして彼女のグラスをテーフルの上に置きながら、夏樹を抱きしめた。
「そのまま、言えばいいよ。後は俺がなんとかするから・・でも、夏樹とは付き合えないよ。好きな女がいるから・・それでいいなら・・そのまま言っていいよ」
夏樹は、首を横に振りながら
「ごめんね、ごめんね・・」って小さく泣いていた。
大人だと思っていた夏樹は小さく震えて泣いていた。

作品名:南の島の星降りて 作家名:森脇劉生