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南の島の星降りて

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新宿の夜は明けもせず


掃除を終えて、地下の店から表に出た。
夏樹はまだ、来てない様だった。
「おつかれ様でした。俺ここでさっきの子を待ちますんで。また木曜日来ます。ありがとうございました」
深々と先輩たちに頭を下げた。
「がんばんなよーサンボ」
背のでっかい先輩たちは口々に同じことを言っては頭をなでてきた。
「あんた、デートなんだって・・女の子と・・やあねぇ・・」
わけ判らないことを言うのはやっぱり山崎さんだった。
「あ、すいません、ありがとうございました。お疲れ様でした」
「はぁい。おやすみなさぁい」
山崎さんは駅に向かわず、違う方へ歩いていった。また、飲むらしかった。

5分経ってもなかなか夏樹は現れなかった。
タバコを吸いながら、「バイトって何だろうって・・考えていた」
「ごめん、待っちゃった?」
走ってきたみたいだった
「いや、ちょこっとだけね」
「まだ、やってるお店しってる?劉?」
なんか化粧が濃かった。
「うーん。ちょっと歩くけど、区役所の前あたりまで・・それでいいならよく行く焼き鳥やあるけど・・それでいい?」
「うん。なんかおにぎりとかもあるかな、そこ?おなか空いちゃった」
良く見たらちょっとお酒が入っているようだった。
「コロッケとかもあるから。そこ」

歩きだして、バイト先がどこか聞こうかなーって考えていた。
どう考えても、あっち方面だよなーって。
「ここでバイトしてるんだ。私」
夏樹が看板を指差した。
びっくりした、キャバレーだった。そこは、俺のバイト先から100mも離れていないビルだった。
内心はキャバクラあたりかな・・って考えてたけど、こことは、まったく考えていなかった。同じようなら、普通キャバクラだよなぁ・・って思った。
「ここって、この聚楽?」
「そう。驚いた?」
俺も新宿でバイトしてるぐらいだから驚かなかったけど・・以外だった。
「なんで、ここなの?って感じかな・・キャバクラのが良くない?自由そうだし。厳しくない?この店?」
「うーん。キャバクラも面接いったんだけどさ、なんかね。ここ気にいちゃったのよ・・」
「ふーん」
バイト帰りに聚楽の女の人を見かけたていたけど、本格的な人ばっかりだった。
「いいかな。付き合ってもらって・・朝まで」
ちょっと、それはイヤって思ったけど、なんか相談なんだろうから仕方ないか・・って思った。

それから、新宿のいろんな店の話なんかをしながら、焼き鳥屋まで歩いていた。人並みの多くは俺たちとは反対に駅に向かっていた。
10分ぐらいでお店には着いた。

「ここの4階だけど」
「うん」
学校の知り合いがバイトしてたので、よく使っていた店だった。
ドアを開けると、店長が目の前にいた。
「こんばんわ。2人なんですけど・・」
日曜の遅い時間なのに込んでいた。
「はいよー奥の所あいてるから、そこでいい?えっと劉だっけ?にーちゃん?」
「は、はい。いつもすいません」
いつも、つまみを多く出してもらっていた。
奥に進むと、お座敷の席があいていた。
「わー、よかった、なんか、畳にすわりたかったんだぁ」
夏樹はうれしそうに靴を脱いでいた。
生ビールを頼んでトイレに向かうと、店長が「どっかの店の子だろう?やるねー」って小声で聞いてきた。「サーフィン仲間なんですけど」って言っても信じていないようだった。
トイレから戻ると夏樹が
「適当に頼んじゃったけどいいかな」
って明るい声だった。
内心、話ってもたいしたことじゃなさそうな気がしてほっとした。
夏樹は、焼き鳥に、コロッケに、ヤキソバなんかをもりもり食って、なんかすごく酒がつよいらしく、ガンガン飲んで、大学のこととか、海のこととかずっと話していた。
「酒強いんだね、夏樹って・・」
「沖縄ですから」
「へー沖縄の人って酒強いんだ・・」
「ビールなんてへっちゃらよー」
俺は基本的にあんまり飲めないので、ちびちび飲みながら豪快な夏樹を呆れて見ていた。
時計は1時半になっていた。
「ここ何時までなの?」
聞かれて思ったけど知らなかった。まだ、お客はいたけど・・
「たしか、朝までやってたと思うんだけど、朝まではいたことないや・・」
「やだー。大丈夫?」
「ちょっと聞いてくるね、店長に」
レジにいた店長にあわてて聞いてみた。ウヒャーだった。日曜以外は朝までだけど、日曜は本当は12時で終わりだけど、だいたいの気分で2時閉店らしかった。
みんな帰っちゃうらしかった。
席にもどって、謝った。
「ごめん2時閉店だって、ここ」
「わー、電車動くまで3時間あるかも・・ま、いいか、寒くないから。どっかで時間つぶれるでしょ・・」
「うーん。夏樹がよければ歩いて20分ぐらいのとこに部屋あるんだけど」
「やだ、ホテルはこのすぐ裏じゃん」
あわてた。
「違う違う。兄貴のマンションここから近くだから・・兄貴いま、田舎だから・・」
「なーんだ、そっか・じゃ、そこで、朝まで飲んじゃう・?お酒あるかなぁ」

「兄貴、酒すきだから、間違いなくあると思うよ。俺だけ飲まないんだよね。家族で・・」
「じゃ、もういこうかなぁ、あんまり飲んでからだと歩くのメンドイから」
もう夏樹は充分飲んでいるような気がしていた。
「じゃ、勘定してくるわ」
「あ、いいよ、おごるって言ったもん」
知り合いの店だったので、強引に俺がお勘定は払うことにした。
店長が、小声で「この時間はホテルは満室だぞ」って言うので、めんどくさいので、「もう、ホテルはとってあるんです」ってチッチャな声で言うと、笑っていた。

表に出ると、新宿の夜はまだ、蒸し暑くネオンが明るかった。
「大丈夫?歩ける?」
「全然平気、走れるかもよー」
そういうと、ホントに小走りで走り出した。
30mぐらいのところで立ち止まると、振り返った。
「ねー早くー」
あわてて、近づくといきなり夏樹が言った
「劉は私のこと好き・・?」
突然でびっくりした。
「え?」
「好きかってきいてるんだってば・・恥ずかしいけど・・」
困った。そんなふうには、ほんとうに考えたことがなかった。
しばらく黙っていた。
夏樹は静かに腕を組んできた。
彼女の胸が俺の腕にしっかり当たっていた。
このまま、朝まで彼女と一緒にいてもいいんだろうかと、考えていた。
「ねぇ、にーにの部屋はどっち?」
「え?にーにーって・・・にーちゃんってこと?」
「そそ。うちなんちゅう言葉ね」
「あ、こことりあえずまっすぐ」
「うん。ねぇ、部屋までずっとこうしてていい?」
20分が30分かかっちゃうかも・・って思ったけど、夏樹の手が腕をつかんで、離しそうもなかった。
夏樹の手は俺の腕をしっかりしっかりつかんでいた。
彼女のその手の想いはわからなかった。

そして、夏樹が今日、俺に何を求めているのかまったくわからない俺がいた。
「好きか・?」って聞くのが目的ではないのは判っていた。
新宿を背にして歩く俺は心の中で汗をかいていた。

作品名:南の島の星降りて 作家名:森脇劉生