陰陽戦記TAKERU 前編
「分かった!」
俺は左手の麒麟の宝玉で白虎の力を引き出すとその瞬間周囲がスローモーションのようにゆっくり動き始めた。
でも本当は俺の方が凄く早く動いているのだった。
「えい! やあっ!」
するとそこでは香穂ちゃんと鬼達が戦っていた。
動きはギコチ無いが筋はいい、薙刀か何か稽古でもしているんだろうか?
いや、それ以前に3対1では圧倒的に不利だ。
「退きやがれ!」
俺は鬼の一体に飛び蹴りをかました。
『ブギャッ!』
鬼は鼻から血を流して倒れる、
「お兄ちゃん!」
香穂ちゃんは笑顔になる、
俺も鼻で笑うと鬼斬り丸を構えた。しかしそこへ白虎が水を差した。
『やれやれ、やっと来たのかい、意外と遅かったね。』
「う、うるせぇよ、こう見えてもこっちは限界なんだよ!」
『ふ〜ん、じゃあ一気に決めるか、僕も久しぶりに美和とお喋りしたいし』
すると杖の先端の虎の指先が開くとそこから3本の巨大な白い光の爪が生えた。
「えいっ!」
香穂ちゃんがそれを振るうと光の爪は弧を描いて飛んで行きまるでブーメランのように鬼の周りを旋回すると竜巻となって相手の動きを封じ込めた。
『さてと、今だよ少年君。』
「わーったよ!」
俺は両足に力を入れると麒麟の宝玉が輝き出した。輝く刀身が巨大化すると俺はそれを振り回して3つ竜巻を同時に切り裂いた。その途端白虎の力は消えて全が元通りに動き出した。
『『『グギギ…… ガアアアアアッ!』』』
散り散りに吹き飛んだ風の中から胴回りを切り裂かれた3体の鬼が断末魔を上げながら倒れて大爆発、憑依された人間の姿に戻った。正体は背広を着たバーコード頭のサラリーマンだった。
一夜明けて翌日、俺の家に香穂ちゃんと旅行から帰った拓也が来ていた。
居間では久しぶりに再会した玄武と白虎が話し合っていた。
白虎は猫くらいの大きさで具現化、玄武も同じくらいの大きさで具現化している。
『いやぁ、久しぶりだねぇ玄武〜、相変わらず無口だねぇ〜?』
『……』
一方的に喋る白虎と口を紡いだまま微動だにしない玄武、随分ギャップが激しすぎるなぁ……
「美和さん、もしかして聖獣ってこんな感じ?」
「い、いえ…… そう言う訳では……」
美和さんは苦笑いをする、
すると加奈葉が俺に尋ねた。
「それより武、体の方は大丈夫なの?」
「ん、ああ…… もう何ともない、」
あの戦いの後、俺は物凄い筋肉痛に襲われた。
美和さんや加奈葉に支えられて何とか家まで帰ってきたが家に着いた時は明け方だった。何しろタクシーもバスも使えない上に祠の破壊や動物園の襲撃で警察も動いてやがるから見つからないように歩いてくるのは骨が折れたぜ……
少し休んで麒麟の力と玄武の力が働いてくれたおかげか今はすっかり元気だった。
すると俺達の会話が聞えたのか白虎が話し掛けてきた。
『あ、そうだ。言い忘れたけど少年君、僕の力を使う時は気をつけてくれ』
「あっ?」
『体力や法力が少ない状態で使うと体に不可が掛かるんだ。下手すると体がチリジリに吹き飛ぶ場合があるから』
「はあっ?」
俺達は一斉に白虎を見た。
「でも私は平気だったよ?」
『それは香穂の体力と法力が十分だったのと僕を手にしてたからだよ〜』
要するに香穂ちゃんの側は台風の目みたいな物か…… ってそんな事聞いてんじゃねぇ!
「美和さん知ってたのか?」
すると美和さんは首を横に振った。
「いえ、私も白虎の力はあまり使った事が無かったので……」
『オイオイ、美和にあたるなよ。それでも男か?』
「誰のせいだーーーっ!」
俺は怒髪天だった。
蝉のやかましい鳴き声が聞えるその空に木霊した。
鬼も倒したし2体目の聖獣と仲間も増えたが何だか理不尽な俺だった。
作品名:陰陽戦記TAKERU 前編 作家名:kazuyuki