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陰陽戦記TAKERU 前編

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第十二話 最終決戦・後編

    
 陰の気で作り出したとは言え自分の腕を引き千切られた暗黒天帝は武のあまりの力に驚愕し、思わず美和をつかんでいた手を離してしまった。
 美和は地に膝を着いて咳き込んでいるが何とか無事だった。
『ば、馬鹿な、貴様の力は奪っていたはず、なのに何故だっ?』
 しかし考えている暇がなかった。
 武が大地を蹴って走り出すとその拳が暗黒天帝の顔面を殴り飛ばした。
『ぐはっ!』
 思わず数メートル飛ばされるが武も地面を滑空すると暗黒天帝の顔を鷲づかみにするとそのまま地面に叩きつけた。
『ぐはあっ!』
 コンクリートを砕きながら宙に放ると今度は渾身の回し蹴りを喰らわせた。
 暗黒天帝が吹き飛ばされた拍子に川の水が飛沫を上げながら左右に分かれて底が露出させるが暗黒天帝はその場に留まり武を睨みつける。
『調子に乗るなぁあああッ!』
 口から渾身の暗黒の波動を放つが武は渾身の力を込めた右手で殴り飛ばした。
 暗黒の波動は巨大な鬼にぶつかると鬼の頭が吹き飛ばされてその場に倒れた。
『な……』
 暗黒天帝にも信じられなかった。
 いくら聖獣の力を借りても人間にこんな真似ができる訳では無かった。
『し、信じられん…… もしやこの男、聖獣の力を借りながらその力を超えたのか? たかが人間が何故だっ?』
 しかしそれより気がかりなのは古傷の痛みと武自身だった。
『そう言えばこの男の顔、どこかで…… はっ!』
 すると暗黒天帝は思い出した。
 かつて平安京で自分自身の体を切り裂いた男の事を……
『……そうか、貴様はあの小僧の生まれ変わりかぁっ!』
 暗黒天帝にかつての怒りと憎しみが蘇り陰の気が膨れ上がる、
『貴様ァアアアーーッ!』
 暗黒天帝が咆えると途端地面が激しく揺れ出した。
 それはまるで暗黒天帝の力に大地が怯えているかのようだった。

 一方、拓朗に傷を癒してもらった辰弥達は美和と合流した。そして拓朗から傷を癒してもらうと変貌した武を見た。
「ど、どうなったんだ武君は?」
 武は人が変わったようだった。
「……分かりません、ですが」
 美和は額の傷が武に共鳴しているのに気付いた。
 すると聖獣達が会話に入った。
『美和、もしかしたら武は……』
『そうか、もしかしたら彼かもしれないよ』
「えっ、まさか……」
『あの者は輪廻の輪を超えて再びお主と出会った…… 我もそう思う』
『どう思うかは貴女次第ですが、あの傷の共鳴が何よりの証拠では?』
 美和は未だに信じられなかった。しかし美和は武といるとどこか安らいだ。
 この時代に飛ばされて不安だったと思った時も武と供にいたから諦めずにここまで来れた。
「……武様」
 美和は武を見て両手を握り締めた。

 暗黒天帝の陰の気はどんどん膨れ上がると天に向かって叫んだ。
『この世に散らばりし我が僕達よ、ここに集まれっ!』
 すると町中から黒い塊が飛んで来て倒れている首の無くなった鬼の体に吸収されていった。
 途端鬼の胴体が立ち上がると新たな頭部が形成された。
 尖った耳とその上から太い2本の角が天に向かってそそり立ち、ゴーグルのような単眼に口には鋭い牙が並んでいる。
 そして右手に持たれていたタイムマシンは右手に吸い込まれて右手が大砲のような形に変形した。
 暗黒天帝は町に放った鬼全てを集めて新たな鬼に作り変えたのだった。
『ククク…… 待たせたな、貴様だけは生かして置かぬ、何度でも蘇るならば何度でも殺すまでだっ!』
 暗黒天帝は鬼に向かって飛んでゆくと鬼の額と融合した。
 これは鬼と一体化した暗黒天帝の右手に黒い陰の気が集まる、
『死ねぇ!』
 その右手から巨大な黒いエネルギー波が発射される、
 武はとっさに回避するが武がさっきまでいた場所の数メートルが粉々に吹き飛んだ。
「くっ!」
 あまりの威力に武は冷や汗を流した。
 まともに喰らえばいくら麒麟の鎧と言えどもひとたまりも無い、暗黒天帝は不適に笑うと宙に浮かぶ武に攻撃を続けた。
『クハハハッ! 落ちろ、うっとおしい蝿めっ!』
「チッ……」
 武は舌打ちをした。
 何しろ暗黒天帝を本気で攻撃する事ができなかったからだ。
 それはタイムマシンと融合した事が原因だった。
 実はここに来る前に考えていた事があった。
 それは暗黒天帝を倒してタイムマシンを奪い美和を平安時代に帰す事だった。
 はたして元の時間枠に帰れるかどうかは分からない上に圧倒的に可能性が低いと言う事は分かっていた。
 しかし最終的にタイムマシンは暗黒天帝と合体してしまった。
 勿論暗黒天帝を攻撃すればタイムマシンも破壊してしまう、その事を武は分かっていた。
 武達の戦いを見ていた辰弥は武の想いを察して美和に尋ねた。
「美和さん、暗黒天帝を倒せば君は永遠に帰れないかもしれない、それでも良いのかい?」
 辰弥が尋ねると美和は少し迷って目を泳がせた。
「……そうですね、少し寂しいですね」
 すると暗黒天帝と戦う武を見た。
 避けてばかりで攻撃できなければ勝てる訳がない、むしろ攻撃し続ける暗黒天帝の方に分がある。
「あ、あの美和さん…… こんな時にこんな事を言うのは何ですけど、この世界はいい世界ですよ」
「そ、そうだよ。美味しい物や楽しい事もたくさんあるよ」
 拓朗と香穂の言いたい事は分かっていた。すると美和は微笑するとこう答えた。
「大丈夫ですよ。私、この世界が好きですから……」
 すると朱雀の宝玉が光出すと左手ごと弓が炎に包まれて朱雀の弓に変形した。
「良いわね、朱雀?」
『ええ、美和!』
 美和が朱雀の弓の弦を引くと頭上に人間大の火球が現れるとそれは巨大な矢となった。
『滅・砕っ!』
 巨大な炎の矢は一直線に暗黒天帝に向かって飛んで行く、しかし美和が狙ったのは暗黒天帝本体ではなく右手のタイムマシンだった。
『な、何っ?』 
 タイムマシンは粉々に爆発した。そして後ろの勝ち誇った顔をする美和を見た。
『き、貴様っ、どこまで邪魔をッ?』
「み、美和さんッ?」
 武が驚いて瞬きをすると美和が叫んだ。
「武様、私はここに残ります、そしてこの時代で生きて行きます!」
「それって……」
 すると美和は優しく頷いた。
「……О・Kっ!」
 武は白い歯を見せて麒麟の宝玉に手を当てて鬼斬り丸の柄を出現させるとそれを強く握って空高く掲げた、
「みんなの力を貸してくれ! 今こそ暗黒天帝を倒す!」
 他の聖獣達の武器が強く輝くと契約者と分離して武の方に飛んで行き、胸当てに埋め込まれている麒麟の宝玉を中心に上に玄武、下に朱雀、左に白虎、右に青龍の宝玉が合体、途端右手の光の刃が金・赤・青・白・黒の5色の螺旋を描くと途端眩い光が夜の闇を打ち消した。
 それはまるで太陽を直視しているかのようだった。
『ぐおおおっ!』
 その光を浴びた暗黒天帝の鬼の体が少しづつ黒い粒子となって消え始めた。
 しかしそれでも武を攻撃しようとよろめきながらも近づくが、それよりも早く武が動いた。
「行くぞ、暗黒天帝っ!」
 武は鬼斬り丸を構えて暗黒天帝目掛けて真っ直ぐ飛んで行き黒い巨体を突き破った。途端光が暗黒天帝の体を包みこんだ。
「これで終わりだぁあーっ!」