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こんにちは、エミィです

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 エプロンをつけた何人もの方が、大松さんに挨拶をします。
 私もすっかり顔見知りの方が多いので、挨拶をしました。
 みなさん、いつもとても驚かれた顔をされるのですけれど、私、何か変なのでしょうか? 異世界から来た人間って、そんなに珍しいのかしら?

「大松くん、今日は上がったんじゃなかったの?」
 年配の殿方が、にこやかに挨拶をして来ました。
「エミィの受け付けだよ」
「お客さまを裏に通しちゃいけないなあ」
「いいじゃん、お得意様なんだから」

 話しながら、大松さんは通路の脇にある棚から、私の荷物を取り出してくれました。
 預かって下さっているのです。

「もうすぐだからって、好き勝手してるね。本当はうち、荷物管理とかしてないんだけどねえ……」
「え、そうなんですか?」
 思いがけない言葉に、私は驚きました。
 大松さんが初めてのときから対処してくれているので、そういったものなのだと、すっかり思い込んでいました。
「ま、今は大松くんが面倒見てるからいいけどね。引き継ぎはちゃんと頼むよ」
「大丈夫ですよぉ、任せてください」

 そのまま小さな扉を抜けて、お店の中へ。
 表の大きな扉から入って来たところに出ました。エントランス、でしょうか。普段と違う道順なので、なんだかとっても新鮮です。

「じゃ、これ、荷物ね」

 簡単な手続きをした後、大松さんが私のカバンを渡してくれました。

 中身は、まあ、殆どがお洋服なので、大きさの割にとっても軽いのですけれど。
 持っていた缶と手紙を、中にぐいと押し込みます。そのとき飴が入った袋が手前に来るように、少し調節。この飴を1日に1回なめないと、こちらの世界の言葉が分からなくなってしまうのです。カンカンは魔鳥なので、大丈夫なんですけれど。

「いつも有難う。かさばるので、助かりますわ」
「いいよいいよ、これくらい。お得意様を大事にして、何が悪いんだって話だよ。ま、みんな理解がいいから。あとこっちもよろしくね。明日までだかんね」

 大松さんはもう一つカバンを差し出します。

「はい、任せて下さい」
「あ、やばぁ、遅刻しちゃう。私、今日、学校なんだ。じゃね」
「あら、そうなのですか? 申し訳ありません、お手間を取らせてしまって」
「いいっていいって」

 大松さんの背中を見送って、私は指定された小さなお部屋へと行きました。
 ゆったりとした一人掛けのソファとテーブルがあるだけの、本当に小さなお部屋です。こんなところで寝泊りしているなんて知れたら、カンカンに怒られてしまいそう。

 私も最初は驚きました。
 あちらの世界でいくら貧乏で天蓋付きベッドは無理だとしても、身体を伸ばして眠ることは出来ましたから。

 でもこういった生活も、なかなか新鮮で楽しいものです。
 こうしてお泊りしている方、結構、いらっしゃるみたいだし。こちらではポピュラーなのかもしれません。

 自分のカバンを足元に。
 大松さんから預かった、小さなカバンをテーブルの上に。
 ファスナを開けると、色とりどりの布が顔を出します。
 中を探って、裁縫道具を取り出して。

 ちくちくちく。
 ちくちくちく。

 んん、楽しいっ……。

 お洋服のおすそ直しを頼まれているのです。
 実は、お金も頂く予定なんですのよ。私の事情を汲んで、大松さんが用意して下さった、内職です。今はお金にあまり困っておりませんが、そのときはこちらに来て間もありませんでしたから、本当に嬉しくて……。

 これまでにも、帽子やカバンの飾り付けなどのやり取りがありましたけれど、これが最後。

 ちくちくちく。
 ちくちくちく。

 明日まで、というお約束でしたからね。
 感謝の心を込めて、縫わせて頂きますわ。


作品名:こんにちは、エミィです 作家名:damo