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Father Never Say...

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やめられないくせに/外崎


 ──“ともだち”が増えるたび、あいつはひとりになっていくんだ。
 大会の終わりに、大勢に囲まれている聖人を、北澤は苦しそうに見ていた。
 
 
 
 外崎充(とのさき・みつる)は16歳である。だが、同い年の北澤史朗(きたざわ・しろう)の【叔父】だ。
 同時に妊娠したのだと、母と姉は当時を振り返っては笑って話す。0歳にして「叔父さん」と呼ばれる身になってしまった息子(弟)の心情など、彼女たちはどうでもいいに違いない。

 そんな家庭事情の所為か、外崎は周囲より大人びており、若干歪んでもいる。生徒会で会計を務めていながら、影では相当なヘビースモーカーであることを知ったら、教師陣は卒倒するだろう。
 外面は絵に描いたような「品行方正、真面目な生徒」なのだから。
 
 

「聞いたぞ白河。 お前またすげー事やらかしたな」
「すごいのは俺じゃなくて、北澤」
 屋上に顔を出すなりかけられた言葉を、聖人は即座に否定した。

 家が隣同士のいわゆる幼馴染である聖人と北澤、聖人の「女」である松原千尋、そして外崎の4人は、よくこうして屋上に集まり、何をするでもなくただ時を過ごす。なぜ常に一緒にいるのか、問われても答えられないし、特に理由などないのだと外崎は思っていた。

「何であいつ?」
 煙草に火をつけながら問い返してくる外崎ではなく、自分に目を向けようともしない松原の隣に腰を下ろしてから、聖人はふたりの吸いさしの煙草を取り上げた。
「今月これ以上吸ったら友達やめるよ」
 松原が舌打ちした。最後の一本だったのだ。だが外崎の方は自分の箱を松原に放り、涼しい顔を見せる。
「やめられないくせに」
「だから、すごいのは北澤だって言ってるんだ」
 聖人は取り上げた煙草を手放したが、誰も拾わなかった。

「…確かに」

 受け取った箱を胸のポケットに押し込み、松原は再び目を閉じ、ほんのついでのように呟いた。聖人はそんな松原の横顔を眺めている。


「大体予想つくけど、…何やったんだ、うちの甥は」
「その場にはいなかったから、後で噂聞いて──部活のあと、溝口に怒ってた。真剣に」
「何て?」
「春日くんより自分が下手ってわかってるなら、ちゃんと練習に来いって。 春日くんが溝口を見下しているとしたらそれは溝口が下手だからじゃなくて、真面目に吹奏楽と向き合ってないからだって。 …北澤が部長になってから、溝口けっこうサボってたし」
「それは……すげえな」



 ──白河が守ったのは春日だけじゃない。むしろあいつはお前達を守ったんだ。
 北澤はそんなことも言っていた。外崎がそれを知るのは、もう少し後の事だ。




 
「それでも、やっぱお前もすごいよ。普通あんなこと言えない。怖くなかったのか?お前ならそこであっちから切られるって事はまずないだろうけど」
「……友達なんか100人いたってウザイだけだよ」
「お前、本気で100人以上いるだろ。500人はくだらないんじゃないか?奴らがそれ聞いたら泣くぞ」
「その500人全員俺の事好きな奴ばっかりだって思ってる?本気で?」
「……違うのか」
「うーん、たとえばさ…溝口が言ってたよ。外崎はジミオのくせに彼女いてむかつくって」
「ジミオ言うな。──あいつ、口を開けば誰かの悪口だよな」
「友達って、大体そういうもんでしょ。いない奴の悪口言う奴は、そいつがいない時、普段悪口言い合ってるメンバーに同じように悪口言われてるんだよ」
「お前は参加しないだろ、そういうの」
「笑って聞いてる」
「…………」
「外崎については俺もそう思うしね。何で?」
「お前なあ」
「聞いてて気持ち悪くなる悪口と、そうじゃない悪口ってあるだろ」
「そういう区別つくか?」
「悪意があるかないか」
「それこそ曖昧じゃないか」
「わかるよ。外崎むかつくってのは、悪意じゃなくて僻み」
「……僻みは悪意じゃないのか」
「微妙に違う。兎に角、俺も影では色々と言われてるんだよ。いつも笑ってて無気味とか、何考えてるかわからないとか」
「あー、それは俺も言われるぞ、しかも面と向かって」
「お前ポーカーフェイスだし。でもさ、他人が何考えてるかわからないなんて、いたって普通の事じゃん。何を考えてるかわからないから話しかけないとか友達じゃないとか、そういう奴がいるけど、実際は友達が何を考えてるかわかる奴なんていない」
「そりゃ、言葉の文だろ?」
「わかってるよ」
「ふうん? で、それがさっきの話とどう関係あるんだ?」
「……北澤だけなんだ。誰の悪口も言わない。誰にも悪口を言われない。敵がいない」
「確かに、聞いたことないな」
「北澤さ、変な正義感とかじゃなくて、本気で溝口のために怒ってたんだ。本当にすごいって、そういうことだよ」
「あいつ自身わかってないよな、それがどれだけすごいことか」
「そこが一番すごいよね」


 この学園で一番孤独なのは誰なのか、それにはじめに気付いたのも北澤だろう。
 外崎はため息をつきながら、聖人が放った煙草を踏みつける。


「信用できない友達が100人いたってしょうがない。北澤ひとりに会えた事で、俺は十分報われてるけど」

 そう言って、聖人は笑った。悲しくなる笑顔だと、外崎は思った。
作品名:Father Never Say... 作家名:9.