小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」

地球が消滅するとき

INDEX|15ページ/16ページ|

次のページ前のページ
 

終章


 2024年の夏、北半球では熱波が襲い、日本においては、西ナイル熱・エボラ出血熱・黄熱病など、熱帯地方のものとみられていた感染症の流行拡大のきざしが確認された。厚生労働省及び日本医師会は、その対応に苦慮していた。蚊に刺されないことが第一ではあるが、蚊を完全に駆除することなどできない。

 10月、大阪都立大学遠征隊が、コンゴ州のパンジャ族から採血した血液にそれらのウイルスが存在していたにもかかわらず、彼らは何の症状もなく元気に暮らしていた、という報道がなされてから、衆目の熱い視線が彼らに向けられた。
 コビトゾウから採った血液にも同様の兆候がみられ、彼らは、不活化したウイルスのワクチン製造の目途を立てていた。

 12月、パンジャ族の遺伝子解読を終えた。
 アラビア半島の地中海から紅海にわたる地域の人々と、もっとも近縁であることが判明した。
 それらの人々がいかにして、アフリカ中央部のジャングルの中で孤立した生活を営むに至ったかは、不明のままである。

 新しいパンジャが誕生した時の卵の殻を、彼らは『賢者の石』と称していたが、それは木下コースケが言っていた、フェロシアン化カリウムが主成分であることも分かった。
 早速、今流行しつつある感染症に対する薬効が調べられることとなった。


 年が明けて1月中旬、越沢金属株式会社主催の小さな宴がもたれた。遠征隊に参加したメンバーと、大学からは本田医学部長、越沢金属からは島津開発部長と、社長が初めて顔を見せた。

「いやぁ、みなさん、このたびの遠征お疲れ様でした。私、越沢金属の越沢です。え〜この遠征で、多くの功績をあげられたこと、大変喜ばしく思っております。報道やら研究やら、少しは落ち着いてこられた頃と思い、え〜本日、皆様のご健闘を称えたいと、ささやかながら席を設けさせていただきました。
 え〜久々のお顔合わせかと存じます。どうぞおくつろぎの上、ご歓談ください」
 乾杯の後、思い出とその後の研究の話題で賑やかな席となった。

「そうですか、4月から試し堀りがされるんですか」
「今のところ、パンジャがいる谷の反対側、ずっと下流の方になりますけどね。あの谷は、大地溝帯を構成しているタンガニーカ湖に続いてるようなんです」
「あの人々は?」
「今回の試掘現場は彼らのいるところから400キロ離れてますから、全く影響ありません。そっから上流に向かって掘り進むわけですけど、彼らの所に行き着くんは、次のパンジャの時代になってますね」
 木下コースケと話をしていた石田翔太は、その言葉に少し安堵した。

 まだこれからトラックの通る道が整備され、住宅や精製工場が建てられ、一つの町が作られることになるのだが、それには2・3年かかるだろう。
 しかし、日本国内の産業界はそれまで待てない状況にあるので、少しずつではあるが、採掘を始めていくことになったのである。
 日本までの輸送の問題などが山積みしているので、越沢金属は商社と組んで、経済産業省や他の関係省庁にも頻繁に足を運んでいるという。
 その資料を木下コースケがトップとなって指揮し、作成しているのだ。

 山田、井伊、松平、近衛らは、ワクチン作製やDNAの遺伝子解読などで充実した日々を送っている。
 榊原康男は、パンジャ族との生活を論文にまとめ上げ、発表することになっている。

 石田翔太は思う。
 自分がこの遠征隊に参加して得たものはなんやろ。現地でいろんな動物と触れ合うことはできたけど、ただそれだけやった、という気がしていた。

「石田君はオオコウモリの血液を採ってくれて、オオコウモリの持つウイルスよりパンジャ族の持つウイルスの方が先に存在していた、ということが分かったんよ。そのパンジャのウイルスは、代々受け継がれてきたものらしい。彼らの話を信じるんやったら、おそらくあそこに到着した時から。これは重大なことやね」

「パンジャ族はいったいどこからどうやって、あそこに到着したんやろなぁ」
 石田翔太は、井伊さくらと視線を交わした。
作品名:地球が消滅するとき 作家名:健忘真実