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TheEndlessNights(1)

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7/20/Day



『…月前ほどから、毎晩の満月が目視でのみ観測されていますが、国立天文台ではこの異常は確認できていないとの発表が出され、物議を醸し出しています。一説によれば一種の集団催眠や、気象条件での錯覚とも言われているようですが、詳しい原因は解っておらず。この摩訶不思議な現象を解明するにはいずれもまだ少し時間が必要なようです。―――続いて世間を騒がせる連続殺人事件の速報です』

テレビの音で目が覚めた。つけっぱなしで寝てしまったのか。電気代がもったいない。
上体を起こし枕元に置いた目覚まし時計に目を移す。
デジタルで表示された時刻は06:32。
いつもより、一時間近くも早く目が覚めてしまった。なんだか損をした気分だ。早起きは三文の得とか言い出した奴はきっと睡眠障害か、負けず嫌いか、その両方かだったんだろう。そんな下らない事を考えながら、少年、無双弥月は大きな欠伸をしながら腕を上げて体を伸ばす。
なんだか妙に目が冴えている。もう一眠りする気分じゃない。
何故だと思って、直ぐに思い当たる節にぶち当たった。そう、凄く嫌な夢を見た。
最初はいい夢だったのに、後半は生々しい殺すだの殺されるだの、B級スプラッタ映画じみた、そんな夢だ。
道理で、目覚めは良いが、気分はあまりよくない。最近、そんな映画なんか見たっけ?
記憶を掘り返しながら朝の尿意を感じて、タオルケットを払いのけてベッドを降りる。
妙な感覚を振り払うようにクシャクシャと頭髪を掻き毟り。少し鬱陶しい黒髪をどうにかしようかなと思いながら足を下ろす。
いつもならそこには何もない、だが今日に限っては違った。不意に下ろした足に何か硬いものが触れた感触がし。

ガタン

と、ベッド脇の机に立てかけられていたそれは、大きな音を立てて倒れた。不意の音に驚いた弥月は飛び上がり、倒れたそれを視認する。その瞬間、尿意は火星の裏辺りに吹っ飛んでしまった。膀胱が破裂する前に無事の帰還を願うばかりだ。等と考えている余裕は彼にはなかった。
「冗談だろ……」
それほど信じがたい物がそこにはあった。
思わず口から零れ落ちた台詞。零れ落ちた先には小汚い布に包まった長細い物体が転がっていた。先の衝撃で布が肌蹴た部分からは、刀の黒い『柄』の部分が露出している。
間違えようも無い。これは夢で見たあの刀だ。包まっている布も、よく見ればどこかで見覚えのある形だ。思わず手を伸ばし、布を引き剥がす弥月。
ゆっくりと刀の全景が姿を現す、夢とは違う、漆黒の鞘に収まっている。だが間違いなく、時代劇でよく侍が腰に挿しているのを見かける、アレだ。少し違っているところは、鍔と呼ばれる部品が見当たらない点と、柄と鞘の間には幾重にも『鎖』が絡みついているという二点。
一点目は、刀に深くない弥月には、足りてないのか最初からこういうものなのか判別できず。
二点目は、どうゆう仕組みになっているのか、鎖はがっちりと施錠されているように刀に絡みつき、弥月がいくら刀を引き抜こうと思ってもそれは決して抜ける事はなかった。
そして、手に握ったままの布に注意を移す。どこかで見覚えのある布。ところどころにボタンが縫い付けられた、衣服の様だ。それをまたゆっくりと広げる。
「冗談じゃ……ないよな」
冗談だとしたら一体その意図するところはなんだろうか。人の夢を覗き見て、趣向を凝らした小道具を用意、隠しカメラで撮影し、最期にはドッキリでした。
誰が? 何のために? そんなのは有り得るわけが無い。
弥月の両手に広げられたそれは、やはり衣服だった。彼の通う学校の校章が左胸に刺繍された夏服用のワイシャツだ。だが、それはその校章を大きく抉って破れており、全面に赤黒い染みが広がっている。
そう、夢で着ていた彼の制服だ。
心臓を抉られた、彼の着ていた。
どおゆう事だ、必死に納得の行く回答を求めて記憶を掻き毟る。よく思い返せば昨夜、床に付いた記憶は愚か、帰宅した記憶も曖昧。最期の記憶は、やはり。
いや、意味はわかっていた。これの意味するところは唯一つ。それは、
「全部……本当に?」
「やつき~~? 起きてるの~? 今の音な~に~!?」
「!?」
不意に聞き覚えのあり過ぎる声が部屋の外から届いた。それは弥月の母のものだ。
何も驚くほどの物ではないがマズイのは状況。
血まみれの衣類と日本刀を抱えた自分の姿は例え肉親とて目撃されれば言及は避けられまい。
記憶、回答、虚偽、行動、予想、一気に現実に戻された衝撃は大きい。様々な思考が暴走し、蛇行、衝突を繰り返して、そのどれもが明確な答えに行き着かない。半ばパニックに近い状態に陥る。
それでも何とか混雑を避けた思考の一端が、兎に角、母への返答を急ぎ、自室への突入を避けるのが良作という、弥月の低スペックCPU限界ギリギリの、なんとも普通の演算結果を通常の倍以上もの時間を掛けて叩き出し。実行に移させる。
「な、なんでもない! 目覚まし落としたんだよ目覚まし!」
そして、口に出た言葉も月並みである。悲しいかな人間はこういった事態にその能が見え隠れする生き物である。無双弥月は何処にでも居る平凡以下の凡々人である。
自分でも落胆するほどの会心の回答に弥月自身、溜息と共に何か大事な物が流れ落ちた不快感を得た。だが、それでも結果は十分だ。
「あっそ、満月はまだ寝てるんだから静かにしなさいね」
それは母からの追求を取り下げるという意味の台詞だ。ちなみに満月(みつき)とは弥月の五つ離れた妹の名だった。可愛い盛りはとうに過ぎ、そろそろ生意気を言い始めたとはいえ、年が離れている所為かまだまだ可愛い・・・・・・そんな事は今はどうでもいい。
弥月はほっと胸を撫で下ろすも、これは単に急場を凌いだ過ぎない。自分は学徒で、母は専業の主婦。自室というプライオリティは自分が部屋に滞在して初めて存在するものだ。
一度、登校して我が居城を空け渡せば、優先権は母に下る、彼女の侵攻を止めるものなど何も無い。
年頃の青少年を無残な敗残兵へと貶める恐怖の断罪。アダルティな極秘ファイルを白日に晒され、まるで首級のごとく綺麗に並べられる、「母の愛」と呼ばれる悲劇はこうして起こるのだ。
そう思い返せばこの悲劇に俺の首は何度晒し者にされてきたのだろう……
それは置いておいて、今回のコレは、「母の愛」で済むような代物ではない。
故に、コレはここに置いて行く訳には行かない。
幸いな事に今日は夏休み前の最終登校日、簡単な挨拶と宿題という名の拘束具を嵌められるだけの午前授業だ。持って行くほかない。
作品名:TheEndlessNights(1) 作家名:卯木尺三