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5分間の恋物語

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ブーケトスに届かない




【明日香】あーあ。花嫁さん、綺麗だったなー……。
【佐 野】ほら、佐藤。送ってくから、もう帰れよ。
【明日香】やぁだ。泊めてよ佐野。
【佐 野】何言ってんだ。高校生時代じゃあるまいし、この年になってそれはマズイだろ。
【明日香】いやんもう、なに想像しちゃってんの? 佐野ってばエッチー。
【佐 野】佐藤。もうおしまい。飲みすぎ。
【明日香】やだ。
【佐 野】佐藤!
【明日香】やだ!! 疲れちゃったんだもん。今日は私ここで寝る。
【佐 野】俺だって疲れてるんだぞ。
【明日香】私だって疲れちゃった! だいたいなんで私が、工藤が他人と結婚するのに、よりによってその結婚式なんかでヘラヘラ笑ってなきゃいけなかったのよ!?
【佐 野】なんでって……お前、あんなに楽しそうにしてたくせに。
【明日香】当ったり前でしょ!? 幹事がムスッとしてていいと思ってんの? 工藤にもだけど、お嫁さんにだって一生に一度の――
【佐 野】結婚式。
【明日香】そうよ!!
【佐 野】(溜息)

(チャイムの音)

【佐野】ん? 誰だろ……。はーい。

(ドアの開く音)

【工 藤】よっ。
【佐 野】工藤……。どうした? 帰ったんじゃなかったのか。
【工 藤】まぁな。ちょっと、礼言っとこうと思って。
【佐 野】礼って…いいのか? 嫁さん、待ってんじゃないの?
【工 藤】いいの。佐藤もいるんだろ?
【佐 野】いるけど……大丈夫かな。まぁ、とにかく入れよ。茶でも入れるから。おい、佐藤! 工藤が来たぞ!
【明日香】え!? うそ、ちょっと待って!! 30秒!!
【佐 野】はぁ?
【工 藤】ん?
【佐 野】さぁ? (コンロの火をつけ湯をわかす音)おーい、佐藤。何してんだ?
【明日香】何にもしてないわよ!! どうぞ!!

(ドアを開く音)

【佐 野】何してたんだ? お前。なんか机の上片付いてるし。
【明日香】何もしてないって言ってるでしょ。
【工 藤】良かったの? まだ30秒たってないけど。
【明日香】しつこいなぁもう! ……いいの? 工藤。お嫁さんお家で待ってるんでしょ?
【工 藤】佐野とおんなじこと言って……そんな、ステレオで追い出そうとするなよ。
【明日香】そういうんじゃないけど。
【工 藤】ちゃんと礼言ってなかったかなー、と。幹事頼んだのだって、急な話だったしさ。
【明日香】ああ……そういう。
【佐 野】いやぁ……わりと楽しかったし。岡崎城で結婚式とかもう二度とないだろうし。いい経験させてもらったし……礼とかいいよ、そんなん。
【明日香】うん、そうそう。お気遣いなく。むしろいらない。
【工 藤】?いらない?って……。まぁ、そう言わずに。
【明日香】だっていらないもん。寒いし。マジ勘弁してください。
【工 藤】えー? 佐野も?
【佐 野】え? あーいや、あー……。
【明日香】いらないよね、佐野!
【佐 野】あぁ、まぁ、そう……だな。水臭いっちゃ水臭いし。
【工 藤】まぁそう言わずに、言わせてよ。二人ともありがとう。
【明日香】え……?
【佐 野】あー……。
【工 藤】本当に感謝してる。お前たちのおかげだよ、スゲー嬉しい。俺、本当にお前らと友達でよかった。
【明日香】あ……うん。そっ、か……。そだね、友達だもんね。
【佐 野】あああ、工藤!! そろそろ帰ったらどうだ? さすがに遅いし。な!
【工 藤】ん? あ、もうこんな時間か……。急にごめんな、俺そろそろ帰るわ。
【佐 野】おう、また落ち着いてから来いよ。……嫁さん、泣かすんじゃねーぞ。
【工 藤】おう。
【明日香】工藤。
【工 藤】ん?
【明日香】おめでとう。お幸せに。
【工 藤】……おう。二人とも、本当にありがとう。じゃあな。

(ドアの閉じる音)

【佐 野】……あの、佐藤さん? 佐藤明日香さーん……?
【明日香】佐野、もう一本。
【佐 野】は?
【明日香】私頑張ったと思わない? すっごい頑張ったと思わない!? だからご褒美にもう一本出して!!
【佐 野】ご褒美って……。
【明日香】なにが楽しくて私が工藤の結婚式の幹事とか……10年越しの片思いのオチがこれなんて哀しすぎる……!
【佐 野】おいー……もう泣くなよ、佐藤……。

(やかんの湯が湧いた音)

【佐 野】ああ! お、おい……とりあえず座って。今、茶入れてやるからな。
【明日香】工藤……!
【佐 野】はぁ……(コンロの火を消す音)なんで俺が……。

(急須にお湯を入れる音)

【佐 野】佐藤、お茶入れたぞーって、寝てるし。まぁ仕方ねぇか……お疲れさん。

(お茶をすする音)

【佐 野】そうして俺は一晩、酔いつぶれた佐藤の頭を撫でていた。入れたお茶は苦かった。

≪fin≫
作品名:5分間の恋物語 作家名:葵悠希