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5分間の恋物語

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消極的ノスタルジー




【美幸】愛があれば年の差なんて!? ――とか。
そんなことをうっとりして言うのは、結局のところ、年の差カップルっていうものを経験していない子なんだろうなーって思う。
もちろん、本当に、年の差なんかものともしないラブラブカップルだって、世の中にはいるらしいけど。あーあ、うらやましい! ――じゃなくて。
少なくとも、二十歳の私が倍近く年の離れたコウちゃんとラブラブ生活を送るのには、ジェネレーションギャップっていうのが大きな幅を取って邪魔をしてる。

(以降・雑踏の効果音)

【浩介】もう真っ暗だな…遅い時間だし、そろそろ帰ろうか。ご両親も心配するだろうし。
【美幸】……まだ七時なんですけど。
【浩介】空が暗くなったら一緒だろ? 若い女の子がこんな時間まで出歩いてるのは危ないって話してんだから……。
【美幸】コウちゃんが一緒なんだからいいじゃない!
【浩介】俺が一緒だから、無責任な真似ができないの。ほーら、駄々こねてないで行くぞ。
【美幸】なんでコウちゃんっていっつもそうなのよ! 私は子供じゃなーい!!
【浩介】駄々こねるヤツは大人でも子供なんですぅー。道端で騒ぐなよ、みっともない。

【美幸】納得しない私の気持ちをそのままに、コウちゃんは強引に私の手を取って駅までの道を歩き出した。
コウちゃんの大きな手を初めて握った時は、元カレの手よりずっと、ゴツゴツしてて固く感じた。その感触が大好きで、デートの時はよく手をつなぐんだけど、そう言ってみたら、コウちゃんは「働く男の手だぞ」って誇らしそうに笑っていた。
……その顔が、なんだか誰かのお父さんみたいに見えて、その時私はすごく嫌な気持ちになったんだっけ。

【浩介】美幸。顔上げろよ。月が綺麗だなー。
【美幸】そうですねー。
【浩介】そんなに拗ねるなよ。
【美幸】拗ねてないわよ! 分からず屋の保護者さんに腹立ててるんじゃないの!!
【浩介】ほらほら、あそこ。伊賀川に月の光が映ってキラキラしてるぞー。綺麗だなー。お前、光モノ好きだもんなー。カラスみたい。
【美幸】何よそれ!!
【浩介】あ。なぁお前、ぽんつくって知ってる?
【美幸】ぽんつく?
【浩介】魚取りのこと、ぽんつくって言うの。
そっか、コレは方言なんだよな。今時、聞かないよなー。最近じゃ、魚取りしてる子供も見かけないし。
【美幸】出たよ、オッサンの思い出話が。
【浩介】オッサンで悪ぅございました。で、お前の頃はどうだったの?
【美幸】どうって?
【浩介】魚取りとかしてた? ってこと。
【美幸】んー……クラスの男子とかは、してたかも……。でも女子はしてなかったよ。
【浩介】へー。俺たちの頃は男女まぜこぜで、皆で魚取りしてたけどな。
【美幸】方言っていえば! 放課ってあるじゃない? 授業と授業の間の、休み時間の。
【浩介】ああ、あれも方言なんだっけ。
【美幸】なんだ、知ってるの。
【浩介】けっこう有名だぞ。まぁ、俺は大学が東京だったし。お前くらいの頃にゃ、イロイロと苦労もさせて頂きましたよ。
【美幸】……彼女とか、いた?
【浩介】は?
【美幸】大学時代。
【浩介】……気になる?
【美幸】……気になる。
【浩介】……お前、本っ当に俺のこと好きだよな。
【美幸】うん。
【浩介】「うん」ってお前……ちょっとは恥ずかしがるとかしろよ。
【美幸】なんで?
【浩介】おじさんは美幸ちゃんの臆面の無いの若さがとってもうらやましいですよ。
【美幸】……だったら、コウちゃん、若返れればいいのにね。
【浩介】なんで?
【美幸】だって同じくらいの年になれば、私が知らないコウちゃんなんていないし、子供扱いもできなくなるでしょ。
【浩介】……ごめんな。
【美幸】そう言った時のコウちゃんは、少し困ったような顔をしていた。

(電車の通る音)

【美幸】駅に着いて、私が電車の定期券を鞄から出すのをじっと見ていたコウちゃんは、改札を渡ろうとしていた私の腕を急に掴んだ。

【美幸】コウちゃん? 何?

(キスの効果音)

【美幸】……今の……?
【浩介】俺はお前を子供だとは思ってないよ。……不安にさせたな。ごめん。
【美幸】コウちゃん、今の! 今の何!? もう一回して!!
【浩介】バカ言うな!! ほら、ここ邪魔になるから俺は行くぞ。お前もさっさと行け。ちゃんと、家についたらメールしろよ。

(雑踏効果音 フェードアウト)

【美幸】たった一駅の電車に揺られて、家に着いて、私は早速コウちゃんにメールをした。
「年甲斐もなく、よく頑張りました」って。
そして、「とっても嬉しかったよ。今度は私からするね」って。
……ダメだ。ニヤニヤが止まらない。

≪fin≫
作品名:5分間の恋物語 作家名:葵悠希