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恋の掟は春の空

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初めての直美の家で



「バイクも持って行くの・・劉ちゃん」
朝から、直美から電話があって、まだ10時だったけれど、呼び出されて彼女の家にバイクに乗って来ていた。おかーさんが庭で洗濯物を干しているようだった。
「いえ、こっちに置いてきます。わかんないんですけどダメって言われたので。親父に」
「そう。危ないからねー置いてきなさいよ。ちょっと待っててね。直美ー 劉ちゃん来たわよー」
おかーさんの声で直美が2階の窓を開けて顔をだした。
「おはよう。今いくね」
いつもの、ちょっとハスキーで元気な声だった。

洗濯物を干し終わったおかーさんが、玄関を開けてくれた。家に上がるのは、初めてだった。
玄関を入ると、直美がちょこんと立って待っていた。
「どうぞ、おあがりください」
なんか、ちょっといつもと、違った感じだった。
「さ、劉ちゃん、上がって」
おかーさんに言われて、一緒に部屋にあがりこんだ。コタツがある部屋だった。

「コーヒーがいい、それともお茶がいいかしら」
「あ、えっとお茶でいいです。すいません」
コーヒーのほうが良かったけれど、遠慮した。
「じゃぁ ちょっと待てってね。いま、いれるからね」
言いながらおかーさんは席を立って台所に行くようだった。

「なんか、問題でもあった・・引越しの事・・なに・・」
小さい声で正面に座っていた直美に顔を近づけて聞いてみた。
「ううん。なんかね、お家賃安すぎないのかなぁ、これって・・とは言ってた」
「そっかぁ、後は何かあるのかなぁ」
言い終わるとお茶を持っておかーさんが戻ってきた。
「あらぁ 正座なんかしなくていいのに・・足崩しなさいね」
助かった。初めて家にあがったので、ずっと正座をしていた。
「足崩していいってさ、劉ぅ」
小さく直美に笑われた。

おかーさんはお茶を出し終わると、引き出しの中から昨日送ったFAXを取り出した。
「劉ちゃん、昨日のこれなんだけど、お家賃4万って書いてあるんだけど・・これでいいのかしら。安すぎると思うんだけど・・2部屋もあるのよ、このお部屋」
予感は当たっていた。
「うーん。叔父に聞いたら4万でいいですって、いうから、いいんじゃないですか・・」
細かい叔父との昨日のやり取りは、黙っていた。

「そうー。どう考えても、普通の値段じゃないけど。これって」
確かにそう思ったけど、「叔父が劉ちゃんの彼女なら・・お祝いで・・」って言ってたのをそのまま、おかーさんに言うのはちょっと、どうかと思っていた。
「きっと、叔父の性格ですから、損はしてないと思いますから、大丈夫です。それでいいです」
「そぉーかしら。でね、ほら、お電話ではなんだけど、ご挨拶させてもらえないかしら、劉ちゃんの叔父さんに。もちろん東京に行ったときにはきちんとご挨拶させていただくけれど・・」
まずいぞーって、展開になってきていた。叔父が電話にでたら何を言い出すかわかったものではなかった。
「劉、電話かけてよ、それで、おかーさんに代わってあげて」
汗がでてきていた。
「うーん。いるかなぁ。けっこう忙しそうにしてるんだよね」
ちょっと、だけウソをついた。
「かけて、いなかったら仕方ないけど、ま、かけてみてよ」
「そうね。劉ちゃん。お願いしていいかしら」
二人に言われていた。
「でも、電話番号は家に帰らないとわからないんですけど・・」
本当のことだった。
「昨日もらったこのFAXに会社の電話番号が・・」
おかーさんが差し出したFAXには、間違いなくはっきり書かれていた。当たり前だった。
あとはもう、叔父が会社を留守にしてることを祈るだけだった。

直美が電話の子機を持ってきた。
「はぃ。これ」
息がつまりそうになりながら電話をかけた。
受付の女の子がでた。
いつものように「茨城の甥ですが、叔父をお願いします」って言うと
「社長でよろしいですね。お待ちください」って返事が返ってきた。
朝っぱらから、目の前が真っ暗になりそうだった。何を言い出すか本当にわかったものではなかった。

「おー 劉ちゃん。今日も、なんか、また急用かぁあああ」
周りにいた直美にも、おかーさんにも、間違いなく聞こえるような大きな声だった。間違いなく叔父だった。

作品名:恋の掟は春の空 作家名:森脇劉生