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郊外物語

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舞台の上をゆるゆると経巡りながら、ひとりの若い女性が、巫女の姿で踊っている。白い振袖の裏地は真紅で、袖の下縁には、これも真っ赤な房がついている。右手に持った鈴を、ねじりながら突き上げるたびに、金属音が鳴り響き、袖が伸びて赤が消える。続いて右手が下がると、また鈴が鳴り袖が割れて赤身が覗く。赤い袴を引きずるようにはいている。白足袋はめったにそのつま先を現さない。袖をつかんだ左手で、ほとんどずっと口元を隠しているので、真っ白に塗った顔の、両こめかみと目のあたりしか見えない。たまに左手が横にずれると、からだが伸び上がり、右足が上がり、みだらなまでに赤く塗られたくちびるが、丸まってつき出てきて、よおーっ、とかわいらしくも鋭い声を発する。同時に脚が舞台を打つ。目はどぎつくメーキャップしてあり、目尻には赤と黄色の顔料が長々と跳ね上がっている。眉はあるにはあるが、白粉に埋もれており、額に二つ並べて、丸い偽眉が墨で描いてある。そのすぐ上には烏帽子が迫っている。笙としちりきの音にあわせて踊っているのだが、演奏者の姿はない。CDを流しているらしい。楽曲の音は、鈴の音、口拍子、トンと踏み込む足の音と混ざり合い、さらに、社を取り囲む鬱蒼たる森林を渡る風の音と、木々に張り付いて鳴きわめくセミの声とも混ざり合う。

二人は、大社本殿に近づいていく。
建物は、八階建てのビルに匹敵するほどの高さがある。胴の部分に比べて、屋根が異様に大きい。棟木の上の水平に伸びる千木や、ぶっちがえた堅魚木が、兜のようだ。頭でっかちで、いかにも不安定な印象を与える。社殿の部分を船橋にして、この下に巨大な船体が埋もれており、古代に遥かかなたの国からこの地に漂着したのかしらと、真砂子は妄想を抱く。
二人は、社殿を一回りしようとしている。裏側は、建物と森林に挟まれた峡谷のようだ。陽がさしていない。
昭子は、小さな社の傍らに苔むした大石を見つけて、腰を下ろす。両手で突っ張ってさらに腰をもち上げる。両足がぶらぶらしている。伊那子は昭子の正面に立ったまま、その足をじっと見つめた。
「大昔は、海が玄関口で、そこから階段が続いていて、木造の超高層ビルのペントハウスに本殿があったんですって。高さ百メートルだって。足が竦むよね」 
昭子が伊都子を見上げて言う。
作品名:郊外物語 作家名:安西光彦