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ふたりの言葉が届く距離

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 第7章



 日曜の職員室にこれだけ多くの教員がいるのは、この時期ならではの光景だ。
 定期試験前に大変なのは学生だけでなく、教師もまた問題の作成に頭を悩ませなくてはならない。
 エンターキーを押して一息つくと、冷めたコーヒーの入ったマグカップを手に取る。

 今の俺にとっては仕事に没頭できるこの状況がありがたくもあった。
 
 理奈と最後に話したのは、もう二週間前。
 彼女のことを考えれば考えるほど、その存在が遠ざかっていくように感じられる。
 思えば、かつての俺達は剥き出しの心を当たり前のように触れ合わせていたのかも知れない。
 それは、いつ壊れてしまっても、いつ汚れてしまってもおかしくない、儚い祈りのような絆だったのだろうか。
 電話で言葉を交わす度にその答えへと近づいていったような気がする。もう一度理奈と話せることを願いながら、きっと恐れてもいるんだ。

「阿部さん、もう終わったんですか?」
 向かい側の席に座る三宅先生の声が俺を現実に引き戻す。
「いや、ちょっと休憩。これから試案の修正だよ」

「こちらは、まだまだって感じですねえ」
 彼の後ろに立つ結城先生がノートPCの画面を覗き込みながら笑う。
「オレは調子の波に乗れば早いんで大丈夫です」
 少しムッとしながらも他の教師もいるので敬語で答えた彼だったが、彼女は呆れ顔で睨みつける。
「そんな適当に作っちゃダメでしょ、真面目にやって下さいッ」

 彼女の言う通り、出題内容を決めることは簡単ではない。自分がどれだけの内容を生徒に伝えてきたか、生徒達にその内容がどれだけ伝わっているか、それを教師が把握できていないと散々な結果となってしまう。試験も授業の一環であり、生徒にとってプラスにならなければ何の意味も無いんだ。

 その後も続いている他愛も無い痴話喧嘩から意識を離し、俺はプリントアウトした試案をチェックする。

 問題の項目数や出題形式を調整し、指導目標に合致した難易度に修正し終わった頃には日が暮れていた。