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世界はひとつの音を奪った

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壱弥という少年



 出会いなんてよほどのことがない限り、続いたりはしない。
 だから僕は街の中で人とすれ違い、僕に目もくれず過ぎ去る人々を肌だけで感じる。
 これが人類が支配する世界だ。
 新装オープンのビラ配りのメイドのお姉さんも、内戦の子供への援助募金を募って繰り返し同じ台詞を叫ぶお兄さんも、汗をぬぐう中年のおっちゃんも、例えば今僕と視線があったって、その瞬間で貴方と僕の記録は終了。
 これが普通だ。

 だから、またその少年に会うとは思っていなかった。
 いやいや、本当に。
 よく目立つ黒い学ランと綺麗な黒髪は、色彩鮮やかな街に浮いてしまっていたのだ。
 道を挟んだ向かい。
 僕は昨日と同じ場所にいて、また小さな露天を出していた。
 しかしその少年は、今日は近づいてくる様子もなく、そばの植木柵に腰掛けていた。
 視線が合ったら、慌ててそっぽを向いたのか彼のほうだったので、僕は別に気に止めなかった。
 …露天商がそんなにめずらしいのかな?
 そんなことを思いながら、まぁそれ以上気には止めず、目の前のロリータちゃんの絶対領域に目をやる。
 僕はトランクの横に置いてあるセカンドバックから小さな袋を取り出して彼女に渡した。
 彼女は今日は一万円を置いていった。
 毎度あり。