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律姫 -ritsuki-
律姫 -ritsuki-
novelistID. 8669
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君ト描ク青空ナ未来 --完結--

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床に倒れているのを助け起こして、話をした。

『あきる』と少年は自分の名前を言った。
いや、言ったつもりだったんだろう。

それでも、声がでていなかった。

激しい虐待がそうさせたのかもしれない。
身体的虐待にネグレクト。
心理的虐待もあったのかもしれない。

空流の瞳は何かに怯え、安心した表情を見せる事はなかった。

世田谷区で倒れているところを拾い、ここまでつれてきて医者に見せ、医者から言われた事を空流に伝えた。

それから、確認。

「虐待を受けていましたか?」
少し躊躇ってから空流の持つペンが動いた。
『あれを虐待と言って良いのか、わかりません』

それから空流が紙に書き綴った事は、怒りを覚えるのに充分な内容だった。

母をなくし、親戚の家につれていかれ、そこで受けた仕打ち。
薄暗い倉庫に閉じ込められ、4月は寒く、6月になると恐ろしく暑い。
1日に2回、それも成長期の男子にあるまじき量で栄養が全く考えられていない食事。
風呂に入ることもゆるされず、風呂のかわりになるのはたまに運ばれてくる洗面器一杯の水。

そして、半年経ったら殺される、と。

虐待の一言で済ませて良い話ではない。

「空流、その親戚の名字はなんですか?」
そう聞くと空流は一瞬迷ったけれど、紙にその名前を書いた。
『一ノ宮』

一ノ宮か。
財界で多少勢力はもっているようだが、鷹島の足元にも及ばない。
あの会長とあの奥方なら、やりそうな話だ。

「空流、あなたはしばらくここで生活をしてください。一ノ宮の方には私から話を通しておきましょう」
『でも・・・』

「いいですか、一ノ宮はあなたの存在を知るものがいないからあなたを亡き者にしようとした。しかし、私はあなたの存在を知ってしまいました。数々の虐待が明らかになり、一ノ宮にとっては知られてはまずいことまで知られてしまった訳です。わかりますね?」

空流は一つ頷いた。

「そうなると、私が何を言おうとも一ノ宮は断れない。そういうことです」

財界で多少なりとも力を持っている家が、児童虐待の上に殺人未遂。
こんなスキャンダルはなかなかないだろう。
しかも鷹島にばれたとなれば、その慌てふためきようも面白いかもしれない。
そんなことを考えている間に、空流はまた一つ、紙にメッセージを書いた。

『これ以上ご迷惑になることはできません』

こちらがそんなことを考えている間に、16歳のこんな怯えた目をした少年が、そう書いた。
行く当てもなく、声がでないという病気を抱え、体もぼろぼろなのに。

「空流・・・」
『助けてくださって、ありがとうございました』

「空流」

名前を呼んだ。

その瞳がじっとこっちを見る。
そこから感じ取ったものは無垢でも何でもない。
強い瞳。けれどその強さは諸刃の剣。

「迷惑なんて思わないで下さい。私はあなたにここに居て欲しいのです」

空流の手をとって、そう言った。
自分の口からそんな言葉がでていることが不思議だった。

けれど、それほどまでに惹きつけられる何かがこの少年にはあった。

「卑怯な言い回しですが、これは恩人の私からのお願いです」
そういうと、空流は少し困った顔をした。
「お願いです、空流」
もう一度言うと、空流は紙にペンを走らせた。
『すみません、お世話になります』

そう紙に書いて、ペコりとこっちに頭を下げた。
その頭をぽんぽんと叩いてやった。

「とりあえず、お腹がすいたでしょうから何か運ばせましょう。私は少し用を済ましてきます」

空流の寝ている部屋を出て、加川に空流の部屋に何か運ぶよう頼む。
心の病気のことにも気をつけてやってくれ、と言うのも忘れず。
そうして、自分の書斎へと向かった。
無論、電話をかけるために。