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律姫 -ritsuki-
律姫 -ritsuki-
novelistID. 8669
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君ト描ク青空ナ未来 --完結--

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18

『誠司、落ち着いて聞いてくれ』
電話の向こうでゆっくりとそう言った俊弥の声にはどうしようもない焦りが浮かんでいる。
「何かあったのか?」
『順を追って話す。今朝、俺が病院に寄ったことは言ったよな?そのせいでここへの到着が遅れたんだ。それで、ここへ着いてみたらもう空流君はいなかった』
「・・・どういうことだ?」
それだけで状況がわかるわけもなく、そう問いかける。
『俺が到着する20分くらい前に、俺の代理を名乗る人間が現れたらしい。そいつが空流君を連れて行った。たぶん今朝病院に呼び出されたのも関係あると思う』
それは・・・つまり、何者かに空流が連れ去られた、ということ。
驚く以前に、信じられない。けれども俊弥がそういうからにはそうなのだろう。
「それで、今はどうしてる?」
精一杯自分を落ち着かせてそう言った。
『今のところは現場待機。今からじゃとても追いつけないし方向の検討もつかない。それで、その人間の素性についてなんだけど・・・もしかしたら一ノ宮かもしれない』
搾り出すように、俊弥が言った。
おそらく俊弥自身もそうでないことを願っているに違いない。
「なんでそう思う?」
そう聞くと、俊弥が日高食品とあった問題を語りだした。
財界では一ノ宮と日高の関係は有名だ。同じ食品系であるからしてとても深いつながりがある。
日高の社長と空流との間にあったことを聞いて、愕然とする。
空流が本名を名乗ったというのならいつそれが一ノ宮にばれてもおかしくない。
「それでも、どうやって・・・?」
空流がここにいることがばれたとしても、今日俊弥が迎えに来る手はずなんて知るわけがない。
『それはまだわからない。千晴たちにも色々聞いてみないと』
「そうだな」
『それで、誠司に頼みたい事がある』
「なんだ?」
『一ノ宮と日高の社員のリストアップ。年齢は30代前半くらいの男性で、背は高い。千晴よりも少し高めだから180cmくらいか。体形は中肉中背。髪は短め。一見さわやかなセールスマンって感じらしい』
「それは、俊弥の代理人を語った人間か?」
『そう。鷹島の情報使えば、できなくはないだろ?』
「それはそうだけど、それだけだけだと情報が少なすぎる。もっと顔の特徴とかがないと・・・」
『ちょっと待てよ、今きいてみる』
受話器の向こうで話し声がする。
おそらく秋山夫妻に話を聞いているのだろう。

『もしもし?顔の特徴だけど、右目に泣きぼくろが大小二つあるらしい』
二人から聞き出した情報をそのまま俊弥が中継する。
それを聞いて、一人の人物が頭の中に浮かんだ。
会った事など1回か2回ほどしかないし、大分前のことだから記憶も曖昧だが、泣きぼくろが同じ目に大小二つある人間を見たことがある。
「目は切れ長で、顔は面長・・・」
『切れ長で面長?なんのことだ?』
その俊弥の言葉を聞いたのか、電話の向こうで女性が言ったのが聞こえた。
その通りよ、どうしてわかったの、と。
『誠司、どういうことだ?』
「社員をリストアップする必要なんかない」
『なんだって?』
「そいつは・・・ほぼ間違いなく一ノ宮の長男だ」
電話の向こうからは何も返答が返って来なかった。
こっちもこれ以上は何もいえなかった。

『誠司、今からこっちこれるか?』
やっと聞こえた言葉がそれ。
「無理だ。今から一ノ宮へ向かう」
今ならまだ追いつけるかもしれない。門の前で待ち構えてればもしかしたら空流をつれた長男が帰ってくるかもしれない。
『お前はバカか!向こうだってもう俺たちに正体が割れてる可能性くらい考えてるだろ。それを知って警戒しないと思うか?門の前に見慣れない車があれば警戒するに決まってる。それでも門の前で空流君が掴まれば良い。だけどほとぼりが醒めるまで一ノ宮の別邸に監禁される可能性だってあるし、すぐに帰ってくるとは限らないんだぞ』
それでも、少しの可能性があるのなら・・・
『冷静に考えろ。いくら酷い扱いをしていても保護者という名目が向こうにある。警察を呼ばれでもしたら、こっちの負けは確実だ。下手をすればお前は未成年拉致で訴えられかねないんだぞ』
「あんな奴らが保護者として認められるわけないだろう!」
『それは俺もそう思う。でも世間はあの虐待の事実を知らないんだ。お前が彼のことで訴えられでもしてみろ。一番悲しむのは誰だ?そこをよく考えろ!』

こんなに真剣に叱り飛ばされたのは、いったいいつ以来だったか。
俊弥の言葉を受けながら、現実を少しずつ飲み込んでいく。
「・・・いまからそっちにいく」
『ああ、待ってる』

所詮、できることなどこれくらいしかない。
電話を切って、目を閉じる。
「・・・空流・・・」
呼んでみても返事は当然かえって来ない。

立ち上がることができるまでには、少し時間がかかった。