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律姫 -ritsuki-
律姫 -ritsuki-
novelistID. 8669
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君ト描ク青空ナ未来 --完結--

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32

なんだか持ち逃げみたいで嫌だけど服を3着づつ、靴は中3のときに迷ったのと似たようなやつを履いて行くことに決めた。
いつか、かならずこれのお金を返すことを心に誓って。
服を買ってもらったときについてきたバッグにそれをつめる。

部屋の机の上に紙とペンがちょうど良く用意されてた。
これは、僕がここに来た始めの日に使ったペンと紙。

声が出なくて、歩けない苦しみに耐え得たのは・・・他でもないあの人のおかげ。

「何か、書かなきゃ・・・」

書きたいことや書かなければいけないことはたくさんあるはずなのに、いざペンを持ってみると頭の中は真っ白だった。


なんとか書き始めてみると、時間が経つのはあっという間。
外で大きなクラクションの音がした。
呼び鈴の音がして、しばらくすると部屋のドアがノックされた。

「え、まさかもう・・・?」
ドアを開けてみると仲原先生。
「空流くん、久しぶり」
「あ、お久しぶりです」
「本当に声出るようになったんだね、良かった」
「はい、おかげさまで」

「準備、整った?」
「すみません、あと少しだけいいですか?」
「うん、10分でいい?加川さん帰ってくると面倒だし俺の不法侵入ばれるし」
「不法侵入?」
「家主の許可も取ってないし、立派に不法侵入だよ。さ、急いで」
「はい」

誠司さんへの手紙は書いてたらきりがないから、終わりにしよう。

紙をもう一枚とって、加川さんへ、と書き添える。
「・・・なんて書けば一番心配させないで済みますか?」
「加川さん?」
「はい」
「・・・なんて書いても心配はするだろうけど、時間稼ぎのためには加川さんに家を出たことばれちゃまずいんだよなあ。『夜まで部屋で寝てるので誠司さんが帰ってきたら起こしてください』とか」
「え、でも・・・」
「多分そう書けば誠司が帰ってくるまではわからないよ。後は布団でカモフラージュしとけば大丈夫」
そういいながら仲原先生は布団の中にクッションをつめて、ベッドに人が一人寝てるみたいなふくらみをつくった。

「書けた?」
「はい」

仲原先生に言われたとおりのことを書いた。
それでも、加川さんにはいろんなことを感謝してるのに最後の挨拶がこれだけだなんて嫌だから・・・紙の裏の右下に小さくお世話になりました、って書いた。
誠司さんが帰ってきて手紙を読んだ後に加川さんがそれに気づいてくれれば良い。

「じゃあそれ、食堂において、行こうか」
「・・・はい」

食堂に加川さんへの手紙を置いて、玄関へ。
この靴を履く最初がまさかこの家を出て行くときだなんて夢にも思わなかった。

玄関を出て、もう一度だけ振り返る。
お城と見紛うような立派な建物。
広い庭。
かすかに聞こえる波の音。

「空流くん、行こう」

いつか、誠司さんの迷惑にならないような人間になれたらまたご挨拶に来ます。
持っていかせてもらう洋服と靴のお金を返せるだけの自立ができたら。

「さ、乗って」
車に乗って、庭を走る。
門を出たら門をしめてから、山道を出発。
家の外を初めて見た。
しばらく山道を下って、公道へ。
田んぼと畑が左右に広がる道を走る。

「それで、俺にはそろそろ何か話してくれるのかな?」

しばらく走った後には、予想していた質問が来た。