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律姫 -ritsuki-
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novelistID. 8669
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君ト描ク青空ナ未来 --完結--

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31

内緒だよ、と言われたから隠しておいた仲原先生の名刺を出す。
そこに書かれている携帯番号。

いきなりかけたら迷惑だとは思う。
それでも、今しかないから・・・。

リビングにある電話で、11桁の番号を押した。
電話特有の呼び出し音が鳴って、5回目でコール音が切れる。
相手が電話に出たのか留守電につながったのかはわからない。

『もしもし?』
相手は電話に出た。
緊張して、何をいっていいのかわからなくなる。
とりあえず・・・なにか言わなきゃ。
「あの、突然かけてごめんなさい、寺山空流です」
驚かれるだろうと思ったのに、電話の相手は動じた様子もなかった。
『空流くんか、今日は休暇だし大丈夫だよ。どうかした?』
「あの・・・お願いがあるんです」
『ん?何?』
「・・・住み込みの仕事を紹介してもらえませんか?」
『え・・・?』
相手の驚いたような声に勢いで流れ続けてきたものがやっと止まる。
いきなり、なんてことを言ってしまったんだろう・・・。
「ごめんなさい・・・やっぱりこんなこといきなり頼むなんて、失礼ですよね。すみません」
『違うよ、グッドタイミング過ぎて驚いただけ。今ちょうど空流くんに紹介したい仕事があるんだ。だから仕事のついでだけど、今そっちに向かってたところ。今家にいるの?』
「今は僕一人です」
『加川さんも留守なんだ、何時に帰ってくるって?』
「2時間後くらいって言ってました」
『あとさ、空流くんが仕事始めたいっていうこと・・・』
「誠司さんには言ってません」
『理由を聞いてもいいのかな?』
「・・・反対してくれると思うから、です。その反対を押し切る自信もないからです」
『うん、大体わかるけど・・・』
「だから、誠司さんには内緒で、お願いします」
『誠司に内緒でっていうのは・・・厳しいな。でも空流くんが今日、俺と一緒に来る覚悟があるっていうなら、できるよ。あと1時間ちょっとでそっちに着けると思う。そのまま一緒に来るっていうなら止めない』
「・・・今?」
『今しかないんだよ。誠司も加川さんいなくて俺が休暇っていううってつけの状況は。どうする?』

今日・・・?
そんなこと考えても見なかった。
・・・そんなの、突然すぎる。

最後にもう一度くらい誠司さんの顔見たかった。
加川さんの作ったご飯、もっと味わって食べたかった。

でも・・・今を逃せばチャンスはない。

それなら・・・

「先生と一緒に行きます」

『そう、そっか・・・。じゃあ1時間で荷物とか準備して。書置きくらい誠司にのこしてあげなよ、あと心配するだろうから加川さんにも一言書き添えて』
「はい」
『あとさ、俺のお願い一個だけいい?』
「僕にできることなんて何もないですけど」
『十分できることだよ。むしろ空流くんにしかできないこと。』
「え?何ですか?」
『誠司のために一つだけ、何か約束してくれない?』
「・・・え?」
『誠司は空流くんのこと想ってくれてたよね?』
「はい、それはもう・・・。」
こっちが恐縮してしまうくらいに。
『だからさ、空流くんが誠司のためにしてあげること、一つ俺に約束して』
「僕が誠司さんのために・・・?」
『うん、何でもいいよ。落ち着いたら挨拶に来るとかでもいいし』
「そんなのでいいんですか?」
『もちろん、空流くんに会えるってことが誠司には嬉しいことだから』
そう言ってもらえるだけで嬉しかった。
「僕なんかに約束できることなんて、全然ないけど・・・じゃあ、働いてお金が溜まったら誠司さんにもらった服や靴のお金を返しに来ます・・・いつになるかはわからないけど」
『へえ、誠司が買ってくれたんだ。わかった、それでいいよ。じゃあ、一時間後にね』
「はい、おねがいします」

電話を切った。
今は何も考えない。
まとめる荷物なんてないけど、とりあえず出る準備をしないと。

考えたらつらくなるから。

何も考えない。