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律姫 -ritsuki-
律姫 -ritsuki-
novelistID. 8669
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君ト描ク青空ナ未来 --完結--

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23

空流がいる部屋をノックして、入る。
話す決心をつけてきたから。
夕飯の前に話してしまおうとおもったけれど、できなかった。
なんて伝えたらいいのかがわからなかったから。

俊弥から言われた言葉を思い出す。
『人間、一番気になるのは好きな人から自分がどう見られてるかってことなんだよ』

なんて伝えたらいいのか、まだわからない。
それでも、今わかっている限りのことをつたえないといけない。

話し出そうとしたその瞬間、空流が私の袖をつかんだ。
「離れたく、ないです・・・」

「え・・・?」

反応が出来なかった。
驚きと、喜びと、何だかわからないような感情までがごっちゃになって襲ってくる。
頭の回転の速さには自信があったのに、一瞬にして思考は停止。

紙に書かれたり、唇を動かしただけだったら、こんなことにはならなかっただろう。
「声が、出てる・・」
「え?」

「ちゃんと声が、出てますよ」
「え、本当に・・・?」

信じられないといった風に、声を出し続けている。
「誠司さん、聞こえますか?」
唇を隠して、そう言われた。
「ええ、聞こえます」
ゆっくりと、そう応えた。

「声が、出るようになった・・・?」
「ええ、そうです」
応じて、しばらくは信じられないといった風に呆然としていた。
そして、空流が唇を噛んだ。目を必死でこすっている。
「空流、我慢しなくてもいいですよ」
そういって、抱き寄せた。
嗚咽が誰もいない部屋に響く。

落ち着いてきたところで、抱き寄せたまま話しかける。
「ずっと不安だったでしょう?」
母親を亡くして、混乱して、何もわからないまま一ノ宮に引き渡された。
自分を棄てて、あの酷い仕打ちに耐えた。
泣く余裕もなかっただろう。

胸の中で空流が頷いたのがわかる。

「・・・ずっと、暗い倉庫で・・・毎日、いつ死んだろうって・・考えて・・・」
途切れ途切れに必死に語る空流の言葉をずっと聴き続けた。
「助けてもらってからも、声が出なくて・・・どうしようって・・・ずっと思って・・・」

不安に思ってて当たり前、そしてずっとそれを自分の中だけに押し込めてきたなんて。

「不安に思うことはもう何も無いですから。足の怪我もあと一週間もすれば歩けるようになります。ずっとここにいていいんですよ」

泣き疲れて、空流が眠ってしまうまでずっと抱きしめ続けた。
眠ってしまったのを確認すると、ベッドに横たえて部屋を出た。

空流の声が出るようになった。
そのことに自分のことのような嬉しさを感じる。
本当にあの少年に会ってから自分はどうしてしまったのかと思う。

声が出たこと、それに離れたくないといわれた事。
どうしようもなく嬉しかった。
自分が空流に傍に居て欲しいと思ってことが通じていたんだと思って。

書斎の電話から俊弥へ電話を入れる。
『もしもし?何かあったか?』
電話を取ると同時に、心配する声。
「いや、空流の声が治った」
『ああ、そうか。良かったな』
「無感動だな」
『すぐ治るって俺が言ったとおりだろ?』
「確かに」
『んで、なんて言ったときに治った?』
声が出たときの状況を説明する。
『ああ、多分今まで空流君の声がでなかったのは抑圧してた欲望の象徴だったんだな』
「なんだ?」
『何も望んじゃいけない、望まないから声が出ない。何かを望むようになったから声が出た。その望みが離れたくない、なんてお前としては本望だろ?』
「・・・なるほどな。本望かどうかは別として」
『はいはい、ところで俺そっちから今東京ついたばっかりでめっちゃ疲れてるんだけど』
「ああ、悪かった。じゃあ、またな」
『おやすみ』

電話を切って受話器を置いた。
明日から、正真正銘の『話』ができる。
そのことに少し期待をして、眠る準備を始めた。