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律姫 -ritsuki-
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novelistID. 8669
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君ト描ク青空ナ未来 --完結--

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35

10分後に姿を現したのは、さっきの温厚そうな葉山先生とは違って、とても怜悧な印象の先生。数学の先生っぽいっていったら確かにこんな感じだけど・・・。
「君が寺山君か。私は数学を担当している八木だ。では、これからテストを始めるが、この程度の問題が解けないようでは編入しても授業についていくことは難しいだろう。どんな事情があろうが、合格したとしても慎重になることだ」
しゃべり方まで威圧的だ。
萎縮しながら参考書を鞄にしまって、テストを始めた。
数学は、医学部の敦也さんに徹底的に教えてもらったから、大丈夫なはず・・・。

と思ったけれども、テストが始まってみると、その難しさに驚いた。
さっきの国語とは大違い。引っ掛け問題も多い。
しかも範囲が、高校の1学期で学習する範囲がほとんど。
普通の学校よりも進度が格段に速い清藍では空流の手がまわらなかったところも1学期中に終わっているようで、手がつけられないところもあった。
その分解答できるところは、丁寧にミスがないようにやったけれども難しくて、あっているかどうかの確証が持てないまま2時間目が終わった。

解答用紙をみて、八木先生は失笑したように見えた。
「この程度では、編入しても私の授業についていくのは難しいだろうな。それに、葉山先生や英語の川上先生のように、誰もが君の編入を歓迎するというわけではないことを覚えておきなさい」
そう言って、先生が教室を出た。

数学のテスト、ぜんぜんできなかった・・・。
しかも、この程度の問題ができないようじゃ編入しても授業についていけないって・・。
歓迎しないとも、言われた。
・・・やっぱり自分には無理かもしれない。
ふと浮かんだその考えを首を振って追い払った。
誠司の作ったチャンスを無駄にしないと決めたのは空流自身。
その思いをもって必死に次の時間へ集中しようとした。


「こんにちは。私は1年生の英語を担当している川上です。寺山君ね。いろいろ大変だった事情はきいてるわ。私はあなたのこと応援してるから頑張ってちょうだいね」
最後の英語を短踏する先生は30代か40代くらいの女性の先生。柔らかい雰囲気。
この先生が渡してくれたテストは、主に中学校の範囲が半分くらい、高校生の範囲がもう半分。しかも丁寧に「ここからは高校の範囲」と問題用紙に書いてあった。
でも、その親切さをむげにするように自分の集中力が下がっているのがわかった。
1問迷うごとに、さっきの数学の八木先生の言葉が頭にうかぶ。この程度もわからないようじゃあ編入しても・・・。その考えがいちいち浮かんできて、ちっとも集中できなかった。
しかも、やっぱり高校生の範囲のほうはすごく難しくて、全部の解答欄を埋めはしたけれどあっているかどうかの確証はない。
テストが終ったあとも、怖くて先生の顔をみることはできなかった。

「よく頑張ったわね。今日はこれでお終い。合否は今日中にお家に電話することになってるから、まっすぐお家に帰ってね」
昇降口まで送ってもらって、家へ歩き出した。

ダメだったかもしれない・・・。数学もできなかったし、英語もぜんぜん集中できなかった。数学の先生には、編入しても無理だって言われた。つまりそれは不合格の可能性が濃厚ってこと。

清藍に入れないことよりも、誠司の好意を無駄にしてしまうことが悲しかった。

誠司と顔を合わせづらくて、ゆっくり時間をかけて帰る。
それでも1時間もかからなかった。

「ただいま」
玄関をあけて、居間へ入ると誠司は電話中だった。
「あ、今戻りました。電話を代わりますのでお待ちください」
誠司が電話を保留にして受話器を置く。
「空流、おかえりなさい。清藍学園から電話ですよ」
早い・・・。でも、不合格ってきっと決まるの早いんだろうな。
「はい。ありがとうございます」
受話器をとると、電話の向こうにいたのは国語の葉山先生だった。
「もうとっくに帰宅してると思ったよ。電話がはやかったみたいですまなかったね」
「いえ・・」
「さてと、肝心のことだけど・・・寺山空流くん、我が校は君を歓迎します。合格だよ、おめでとう」
「え・・」
信じられなかった。
「ほんと・・ですか?」
嘘なんてつくはずがないのに、そんなことを聞き返さずにはいられない。
「本当だよ。正真正銘の合格」
じわじわと、その言葉が脳に染み込んだ。
「あ・・ありがとうございます!」
「君が頑張ったからだよ。一人でここまで勉強するの大変だっただろうね。とはいっても、うちの授業は厳しいから編入してからもしっかりやるんだよ」
「はい、頑張ります!」
その後は、改めてオリエンテーションを行う日程の話や制服のサイズの話をして2学期の初日から、清藍学園の高等部へ編入することとなった。

電話を切ってから、合格という言葉が少しづつ実感できた。
力が抜けて床に座り込む。
「・・・だめだとおもったのに・・・」
安心したのはもちろん、他にもいろんなことを思った。

自分には決して戻ってくるはずのなかった高校生活。
それがいま、目の前にある。
「・・・よかった」
今までの色んなことが思い出されてきて、目を閉じると涙がこぼれた。

「よく、頑張ってくれました」
誠司の手が背中にまわって、頭を撫でられた。
零れ落ちた涙は、誠司のシャツに吸い込まれた。


第三部 FIN