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VARIANTAS ACT12 英雄の条件

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「笑顔で、『ありがとう』って…」
 彼は目を閉じ、短く息をついた。
 いつも明るくて、親切で、悩みなんか一つも無いような笑顔を見せるグレンが、エステルの前ではそんなにも弱い面を見せた。
 そうか…
 彼女は、自分たちでは想像も出来ないほど辛い思いをしてきたのか…
 グラムは、目を開けて呟いた。
「家族…か…」
 エステルが一瞬寂しそうな顔を見せてから、こう言った。
「でも“家族”って難しいです。側に居るだけなら、誰でも出来る…でも、言葉をかけて、心を癒す事が出来る人は、何人も居る訳じゃない…だから、大佐…お願いします…彼女に、今よりももう少しだけ多く、言葉をかけてあげられませんか?」
 優しい顔でグラムを見つめるエステル。
 そんな彼女の顔を見て彼は、一つの言葉が思いに浮かんだ。

『母親』

 そうだ…
 この笑顔だ。
 忘れていた…
 彼女を愛するようになった訳を…
 だからこそ、今までもずっと…
「努力しよう」
 彼はそう言うと、踵を反して再び歩き始めた。
 静かな足音。
 優しい後ろ姿。
 彼女は安心した表情で、彼の背中を見つめた。
「エステル…」
 彼が再び、彼女に話し掛ける。
 今度は、優しい、落ち着いた声で。
「はい?」
「疑って悪かった…」
 エステルが立ち止まる。
 そして彼女は、共に立ち止まった彼に、優しい笑顔で言った。
「おばかさん…」
 苦笑するグラム。
 彼女は、グラムの横に立ち、共に歩調を合わせて歩いていった。




Captur 2

「よし、グレン君。もう一度確認しよう」
 ミハエルが、端末のリセットボタンを押しながらそう言うと、彼女は元気よく頷いた。
 タイミングを合わせ、二人とも同時にEnterキーを押す。
 端末画面を瞬く間に埋め尽くしていく膨大な量の数式の列。
 グレンは、その全てを汲み取るように、高速でキーを叩いていく。
「君は以前、『兵器は結局、人殺しの道具だ』と、言ったね」
「え…?」
 彼女は思わず聞き返した。
「良いかね? グレン君。兵器は人を殺さない。人の意思が、兵器を通して人を死に致らしめる。問題なのは使い手の意思、創り手の想い…ここを見たまえグレン君。兵器は…機械は人の思いや感情など理解しないという事を分かっていながらも、こんなにもたくさんの人間を惹き付ける…兵器は、用いる意思によってここに居る全員を殺す事もできるが、同時に、全員を救う事もできる…愛する人を守る事もできる。だから私は…」
 ハンガーに到着したグラムとエステルを見て、彼は静かに言った。
「彼らを信じる…」
 グレンが手を止める。
「先生…」
「なんだ?」
「兵器に、創り手の意思と想いが宿るのなら、私は先生の事も信じます…想いは、絶対に伝わりますよ」
 透き通った、満面の笑顔を見せるグレン。
 いつの間にか確認は終わっており、数式の末尾で『complete』の文字が点滅していた。
「確認が終わりました。先生」
「うむ、ご苦労」
 端末からジャックを引き抜き、二人の元に歩いていくミハエル。
 彼は、ふいに立ち止まり、グレンに言った。
「君の想いも、伝わるように祈っているよ」
 ミハエルの背中を見送るグレン。
 彼女はうれしいそうに微笑んだ。




************




 彼がハンガーに着いた頃には既に、全ての準備が調っていた。
 彼の操縦に追従出来るよう、調整が繰り返された駆動系。
 グラビティードライバー。
 大出力スラスター。
 重力波兵装。
 その全てが、再び命を吹き込まれるその瞬間を待っていた。
「待っていたよ。ミラーズ君」
 彼は、声のした方向に振り向いた。
「遅くなりました…博士」
「いやいや…規定時間通りだ。調子はどうかね?」
「万全です。そちらは?」
 ミハエルは機体を眺めた。
「これが現段階では最新バージョンになる。武装は今まで通り胸部ビームカノン2門、EPC、グラビティードライバーによるグラビティシールドと近接兵装…ただ、駆動系を競技規定ギリギリまで微調整してあるが、そのせいか、機動力は上がったものの、非常に…」
「デリケート?」
「そう。しかも駆動制御ソフトが、データ不足で間に合わなかった」
「問題ありません、博士。なにも問題ありません」
 機体の前で立ち止まる。
 つや消しの黒一色で塗装された機体は、戦いの前だと言うのに、まるでショールームに飾られるかのように磨き上げられていた。
「可笑しく思っただろう? ミラーズ君」
 ミハエルが、機体に触れながらそう呟いた。
「戦いの前だと言うのに…嫌でも傷だらけになると言うのに…」
 彼は、グラムの顔を見据えた。
「“戦いの前だから”だよ、ミラーズ君」
 “だからこそ”
 最善のタイミングを指すこの言葉に、彼は強く頷く。
「この機体…無傷でお返しします。博士」
 彼はそう言って、ミハエルに敬礼すると、機体のコクピットに身体を滑り込ませた。
「大佐…」
 グレンが顔を覗かせる。
「先生…大佐のこと信じてるって…だから…必ず勝ってきて下さい!」
 彼は頷く。
「それから…エステル…」
「はい?」
「夕べはありがとう…とてもうれしかった…気をつけてね…」
 グレンはそう言って、エステルの頬にキスした。
「大佐も、お気をつけて!」
 グラムに敬礼するグレン。
 グラムは彼女に、敬礼仕返した。
「起動開始」
「了解」
 コンソールが光る。
 コネクションチェック。
 異常無し。
 FCS、システムノーマル。
 起動完了。
 あと一つ、このスイッチを押せば、コクピットハッチが閉まる。
 だが彼は、躊躇した。
「グレン…」
 機体から離れようとしたグレンを、彼は呼び止めた。
 エステルが、機体を“待機状態”にする。
「大佐…?」
「…行ってくる」
 グレンは微笑んだ。
「いってらっしゃい」
 閉まるハッチが、二人を隔てる。
 システムをアクティブに。
 ハンガーの外へ出る。
 モニターの端に、ウインドウ。
「グラム…」
「すまん…エステル。あれが精一杯だった」
「いいんですよ…グラム…少しずつで…」
 彼女は優しく微笑んだ。
 管制室から入電。
「キクチ金属工業社製試作機の発進を確認した。試験機、発進せよ」
「了解、ランデブーポイントへ向かう」
 大きく息をつく。
「グラム=ミラーズ、リセッツクロウ…出撃る!」
 機体は静かに動き出し、ホバー走行へ。
 徐々にスピードを増すリセッツクロウ。
 機体はやがて、空へ舞い上がって行った。



************




[第一演習場上空]

 コクピットの中で、大きく息をつく。
 網膜に映し出される、“水蘭”の視界の中、灰色の雲が、遥か前方から彼の背後へ高速で流れていく。
 一瞬、ハッチを開けて、直接外を見たいという衝動を押し殺し、彼は機体を気流に乗せた。
「若様」
 視界の端にウインドウ。
「間もなくランデブーポイントです」
 気付けば機体は、対戦相手との合流場所へ到着していた。
 レーダーに反応。
 グリッドマップに表示される、三角のカーソル。
 黒い人型の物体が、雲を突き抜け、水蘭の横に並んで飛行する。