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真・三国志 蜀史 龐統伝<第一部・劉備、蜀を窺うのこと>

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 黄権もまた張松らのように聡明であったが、それなりに忠義を持ってもいた。そのため、さすがに張松らの計とまでは考えずとも、今荊州を追われている劉備を蜀に入れることの危険性を劉璋に説いた。しかし臆病な劉璋は、その黄権の進言を無視した。
 劉備を呼び寄せれば、自分を脅かす張魯の軍を叩いてくれる。張松、法正、孟達によってそう信じ込まされた劉璋にとって、黄権の懸念は五月蝿いだけだった。
 劉璋は、正使として法正を、副使として孟達を劉備のもとへ向かわせた。
 しかし、二人が使者に立ったあとにも、蜀の諸将らの中には反対するものが少なくはなかった。とりわけ費観や王累ら文官が大いに反対していた。中でも声高に劉備を入れるなと主張する王累に、優柔不断な劉璋は再び悩み始める。蜀に残った張松がこれをいさめ、事あるごとに劉璋に対して、劉備を迎え入れれば蜀を脅かす張魯はいなくなると、繰り返し言って聞かせた。
 劉璋は結局、王累を罰し、王累は最後まで反対しながら自害した。
 荊州に向かった法正、孟達は張松の企みを劉備、諸葛亮らに打ち明けた。張松の残した地図に加え、法正、孟達からもたらされたかの地の情報を得て、諸葛亮と龐統は、いよいよ今が蜀を得る絶好の機会であると確信する。
 蜀に向かう部隊には、劉備のほか、攻めの軍師として龐統が、戦士として魏延、黄忠が選ばれ、五万の兵を率いて、劉備一向は意気揚々と蜀に向かった。
 これが、成都征圧戦における両軍の情勢である。


 劉璋軍も徐々に前進していたのか、劉備の予想よりも幾分早く両軍は出くわした。
 前方を進む魏延の部隊から、劉璋軍と遭遇したとの知らせを聞き、龐統は劉備に少し遅れてくるよう言い残し、自分は馬を走らせた。劉備を残したのは、劉璋の人柄や軍の状況を確かめ、この場で両者を合わせることが不利にならないか見極めるためだった。
 龐統が到着すると、既に魏延と法正、劉璋の三人は揃っていた。
「龐統殿……」
 やってきた龐統に真っ先に気づいたのは、劉備軍の魏延ではなく法正だった。
 法正。字は考直。扶風郡郿出身の文官である。ちなみに、この時彼は龐統より一つ年上の37歳であった。
「法正殿、久し振りだねぇ。この間は色々と話を聞かせてもらって楽しかったよ」
 その飄々とした挨拶に苦笑を漏らしながらも、法正は内心、龐統の対応にひやひやしていた。この場には自身の現君主である劉璋がいるのである。いくら自分が使者に立ったとは言っても、君主の劉璋よりも文官に真っ先に声をかけることは無礼である。劉璋がいずれ倒される君主であったとしても、今はまだ劉備に対する心象を悪くするわけにはいかないのだ。
 だがその時、法正は龐統の視線がちらちらと劉璋を捉えていることに気づいた。
(……なるほど、そういう事か)
 差し支えない程度に受け答えをしながら、法正は内心、龐統の手際の良さと口車に舌を巻いた。
 龐統は、自分に挨拶がしたかったわけではない。劉璋の人間性を知ろうとしていたのだ。
 龐統の師である司馬徽がそうであったように、龐統もまた人物評を好み、また人一倍的確にこなす。その方法も似通っているのだ。
 普通ならば知りたい人物と話すのが一番である。もっとも分かりやすい形で相手の性格を知ることが出来る。だが、話をするということは相手にも嘘をつく隙があるということだ。それでも話をするだけで人物評を行おうとする賢人や士大夫があとを絶たないのは、彼らは言葉からしか人を見定められないからだ。
 しかし、司馬徽、龐統、そして恐らくは諸葛亮や周瑜、司馬懿など、抜きん出た智謀を持つ者たちにはそれ以上の事が可能なのだ。
 相手に喋らせるのではなく、自ら動く。そしてそれに対するより自然な反応を窺うため、直接言葉をかけようとはしない。そうすることで、所作の一つ一つから相手の思惑をうかがい知ることが出来るのであろう。
 さすがは、鳳雛。
 諸葛亮と並ぶ、あるいは軍略に関しては諸葛亮をもしのぐといわれた天下随一の賢者。
 ようやく劉璋に声をかけた龐統を見つめながら、法正はただ関心するばかりだった。