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まつやちかこ
まつやちかこ
novelistID. 11072
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ココロの距離

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【2】-2

 レンタルする道具や仕入れる材料の目星をつけ、一応の話し合いが終わったのは5時半頃だった。
 飲みに行くという他のメンバーと別れ、柊は自宅アパートへの道を歩いた。明日は1時限目、8時50分からの試験なので、バイトのシフトは入れていない。夜更かしは得意だが朝に弱いのだ。
 道すがら、サークル部屋での木下との会話を思い出した。
 幼なじみがそこまでモテるとは知らなかった。
 ……いや、そう言うのは間違っているかも知れない。
 ちょっと考えれば、奈央子がモテないはずがないと言うべきか。
 中学まで一緒だったから、昔から成績が良かったのは知っている。高校は特にハイレベルでもない女子高だったけど、第一志望の大学は難関国立だったらしいから、高校時代も勉強はそこそこやっていたのだろう。柊自身、宿題や課題で詰まった時には必ずと言っていいほど頼っていた。しかも現在進行形である。
 優等生ではあったが、木下の言う通りガリ勉タイプではない。実際の勉強時間は知らないけれど、例えば徹夜で勉強していたとしても、そういう雰囲気を感じさせないところが奈央子にはあった。加えてどれだけ良い成績を取っても、自慢げに口に出したことは一度もなかった。
 そして。
 本人に面と向かって言ったことはないが、確かに奈央子は美人だと思う。彼女の母親も40代半ばとは思えないぐらい、まだ若々しくて綺麗な人だ。
 中学の頃、クラスの女子で誰が一番可愛いか、といった話をするたび、必ず奈央子が話題になるのが内心自慢だった。正確に言えば、奈央子の名前が出て、彼女が柊の幼なじみであるのを他の男子連中がうらやましがることに、ひそかな優越感を感じていた。
 その頃は、そうやって話題にするだけで、本気で付き合う段階までは考えていない連中が大半だったと思う。今日の木下のように、幼なじみだからと探りを入れられたりした覚えはなかった。……いや。
 今思い返すと、一人だけ、何か聞いてきたような気もする。奈央子の好きな食べ物か、芸能人か……あれは同じバスケ部員で、同学年で一番早くレギュラーになった湯浅だったか。
 そういえばその後、やけに意気消沈していた時期があった。いつも過剰なぐらいに自信家で、肩で風を切って歩いているような奴だったから、元気のない様子がえらく目立ったものだ。
 聞いてみても理由は答えなかったが、要するにふられたのかも知れない――奈央子に。
 当時の湯浅の様子を思い出し、おかしくなった。思い出し笑いが出るほどに。
 ……同時に、奈央子が湯浅と付き合わなくてよかった、と安堵している自分に気づいた。気づいた途端に戸惑う。
 当時もし、気づいていたとしたら。そうならなくてよかったと思うのは同じだったろう。湯浅の自信過剰さ、そこに基づく嫌味な態度が気に入らなかったからだ。
 しかしその場合、湯浅がふられたのがいい気味、と感じるのが基本だったと思う。今みたいに、あんな奴と付き合わなくてよかった、と奈央子の方に比重を置いては考えなかったのではないか――  
 無意識に、それ以上深く考えるのはやめた。ちょうど自宅に到着したからでもあった。
 郵便受けを確認し、中身を手に取る。1DK部屋の隅のゴミ箱に、生命保険やら何やらのダイレクトメールをまとめて放り込んだ。
 晩メシをどうしようか、と考える。自炊を全くしないわけではないが、どうも面倒くさいと思う方なので、外食やコンビニ弁当が多くなりがちである。
 しかし給料前で、仕送りは月初めなので、懐はあまり暖かくない。米はまだ残っているが、おかずにできる材料があったかどうか。
 などと考えながら、本棚兼物入れにしているラックの方へ目をやると、明日の試験科目であるドイツ語のテキストが半分はみ出している。
 それを見た途端、気にかかることを思い出した。

 携帯が鳴った時、奈央子はちょうど家に帰り着いたところだった。マンションの自分の部屋の前、手にしたスーパーの買い物袋をいったん下に置き、さて鍵を開けよう――というタイミングだった。
 慌ててカバンから携帯を取り出し、ディスプレイを見ると、登録してある名前が表示されている。柊の番号だった。
 この時間に電話してくるということは、今日はバイト休みなんだろうかと考えつつ、通話ボタンを押す。
 「もしもし」
 『もしもし、奈央子? 聞きたいことがあるんだけど』
 「ちょっと待って、今家に入るところだから……オッケー、いいわよ。なに?」
 『明日のドイツ語のことなんだけど。範囲何ページまでだったっけ?』
 「えーっと――確か47ページまでだったと思うけど」
 『げ、マジ?』
 「マジよ。それが?」

作品名:ココロの距離 作家名:まつやちかこ