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ほしのひかり

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りりりりりりりりりりりりりりりり。
 きのう。ほしのこえをききましたか。きのう。そこで。すぐそこで。りりり。ほしのこえをききましたか。とおく。ひかる。そこで。ひかる。ほしのこえをききましたか。
 すぐそこで。

 耳元で声。眠っていた。でもねてないさ。よる。もうねむりたい。夜なのにね。耳元で声。怒っているのかもしれない寝ているから。塾だここは。うたたね。怒られるなあ。
『星の声を聞きましたか』
 耳元で。
「ほし?」
 ぽかんとした声が出た。
 カーテンがはたはたと揺れていた。クーラー切ってある。換気中だ。誰もいなかった。がらんとした部屋、がたがたするパイプの椅子と机。机の表面、つるんとした木目に穴が開いていて、そこをみんな授業中ひっきりなしにつついているので黒く汚れていた。消しカスをまとめて、穴につめこんだ。ぼんやりあつめて詰めた。
 だれもいなかった。塾の夜、同じ教室で学ぶ中学生、自分だってそうだけれどほかに呼び方を思いつかない、たちも、先生も、だれもいなかった。どうして置いていかれてしまったのだろうと思った。ひとりだった。眠り。
 ほしのこえを。
 ききましたか?
 りりり。耳の奥で、鈴を振るようなかるいかすかな音がする。さっきだれかが、星の声を聞きましたか、と言った。でもここにはだれもいない。耳の中のりりりがやまなくて、頭の中が静に光っている。数学もスペルも年号も大昔死んだ人の顔も、皆消えて、りりり。
 星の声を聞きましたか。
 みんなどこへ行ったんだろう、と考えて、続きで、そりゃあみんな帰ったんだろ、と考えた。塾の白い部屋、嘘の木目模様の机、パイプ椅子、粉だらけの黒板、黒い靴跡のついた白いはずの床、揺れるカーテン。カーテンが揺れるむこうで、黄色いものがまるく、光っている。ポケットに指をつっこむとそこがゆるやかに暖かく、どうしてだろうと思った、まるい光り。
 帰らなきゃ。
 そう思って声は出なかった。
作品名:ほしのひかり 作家名:哉村哉子