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短いおはなし

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よん


珈琲が好きなのは僕。
ミルクティーが好きなのは彼女。
ようするにそれは君で、君とはつまり咲樹のことだ。
…咲樹は近頃おかしい。
ミルクティーを飲まない。…のも、もちろん変だけどなにかがおかしいのだ。
僕は勘が鋭いほうだからわかってしまう。
それがなんなのかはわからないけど…。

「咲樹」

咲樹は静かに振り向いた。
いつも通りに気高く、静寂を保ったシクラメンの花のようだ。

「何?」

…コンッ
と、誰かに頭を軽く叩かれたような違和感。
どうした?なぜわからないんだ?彼女は何を思っているのか?彼女を愛しているんだろう?
…そうやって、僕の頭の中で誰かがきいている。

「たまにはバスに乗らない?」

咲樹は読んでいた本から頭をあげて微笑んだ。

「いいわよ。」

僕は薄いコートをはおる。
咲樹は水色のカーディガンをはおる。

「小雨が降ってる…傘持っていく?」

「1本でいいかな。」

「えぇ。」

小さな雨音のなか、ぼくらは同じ歩幅で歩く。
僕がゆっくりと、君が少し急いで。

「みて…白い息。」

咲樹は少しはしゃいでいる。

「うん。」

「どうしたの?」

「…なにが?」

「だって…。」

咲樹はくすっと綺麗に笑う。
水溜まりがはねる。

「「バスに乗ろう」って…。普通「バスでどこかに行こう」じゃない?…なにかあったの?」

そう聞く彼女は心なしか楽しそうだ。

「いや…それは…」

君の方じゃないのかい?と、いいかけて口をつぐむ。

咲樹がにっこりと笑っている。

「にっこり」と、だ。

「あなたは勘が鈍いたちだから。」

そして嬉しそうにバス停へ駆けていく。

「ねぇ」

「なに?」

「この恋をどう思う?」

咲樹は悪戯っこのように僕を見つめる。

…僕はなんだか幸せになってくる。


「最後の恋かな。」


彼女は遠くから雨を蹴り跳ばしてやってくるバスに手をふりながら、


「だと思ったわ。」

とはにかんだ。
作品名:短いおはなし 作家名:川口暁