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北極星が動く日

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 茂樹らの丹染高校は、甲子園の常連校といわれている。京都府内では敵がいないというくらいだ。実際、夏の甲子園には去年まで6年連続で出場している。春の甲子園にも、その間に3回出場していた。
 今夏の府大会も危なげなく勝ち進んでいる。準決勝までの5試合で取られた点数は3点のみだ。逆に、取った点数は44点だった。
 しかしこの決勝戦は違う。創立わずか2年の私立双葉高校が相手だったのだが、8イニングもの攻撃チャンスがあったのにもかかわらず1点も奪えていない。逆に、中盤で打たれたソロホームランにより1点のビハインドを背負っていた。
 丹染のエースである松本は、いつも以上に調子が良い。失った安打はホームランの1本だけで、それ以外は外野にすら運ばせない。それだけに、唯一の失投が悔やまれた。
 打撃陣には全く元気がない。8イニングで放った安打は僅かに4本。そのうちの1本が、茂樹のラッキーな3塁打だ。
 慣れないアンダースロー投手が相手というのもあり、ビデオを見て対策はとっていたつもりだったが、序盤は全く打てなかった。
 実際に目で見て中盤以降は慣れてきた。だが、真芯で捉えた打球が野手の正面に飛ぶ。なかなか点を取れない焦りからか早打ちになり、相手投手が楽になる。そういった悪循環で、状況はどんどん悪くなっていた。
 こんなはずではなかった。今年のチームは例年にも引けをとらない。秋季京都府大会では優勝した。続く近畿大会で初戦負けしてしまって春の甲子園出場を逃したが、その悔しさをバネに冬場のトレーニングを頑張ってきた。
 その甲斐あってか春季府大会でも優勝し、近畿大会では準優勝だった。そのため、今夏の目標は甲子園出場ではない。あくまでもそれは絶対条件であり、目標は春の近畿大会で敗れた成沢学院に甲子園という舞台で勝利することだった。
 何故このような展開になっているのだろうか。セカンドを守りながら茂樹は考えるが、まったく分からない。部員だけでなく保護者たちも含めて、おそらく全員が思っているであろう。
 頭の中で今までの練習を思い浮かべる。茂樹は、丹染高校の練習量は府内で1番だと思っている。そのくらい丹染高校の練習は厳しかった。甲子園常連の名門校なら当然なのだろう。また、それに対して茂樹ら部員が疑問を持つことも無かった。
 厳しい練習が当たり前の世界で毎日練習してきた。甲子園に出場するために、甲子園で優勝するために練習を毎日してきたのだ。その自分たちが創立2年目の学校などに負けていいはずがない。
「松本! さっさと終わらせて逆転サヨナラやぞ!」
 投球練習が終わって内野のボール回しからボールを受けとった松本に、茂樹は声をかける。気合いが入っていたために、彼は自然と声を張っていた。
 その声が聞こえたのか、松本が茂樹の方を見て頷いた。
作品名:北極星が動く日 作家名:スチール