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城塞都市/翅都 fragments

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What is hurts the most




 とりあえずノリのいいオッサンだよね。冗談好きな感じでゲイでマゾってのはともかく、不能ってのは頂けないけど。テディの印象を尋ねると、カヤはきょとんとした後で笑いながらそんなことを言った。でも多分見た目よりは神経質なんじゃないかなぁ。繊細っつーと行きすぎだけどさ。

 カヤは枝みたいな細い手足をしたメスガキで、二か月前に奴隷市場で叩き売られていた所をテディ曰く「拾って来た」らしい。話を聞いた時は犬猫の子供じゃねんだからと顔を顰めたもんだったが、それ以上の事を深く聞いた事はない。詳しい経緯なんざ、正直どうでもいいことだからだ。

 図太い奴ならそもそも不能にはなんないだろうし、でも繊細っつーような造作のおっさんでもないじゃん?乱暴にテーブルを拭きながらカヤは続けた。お前の酒場で雇ってやってくれとテディに頭を下げられちまったので渋々雇ったガキだったが、カヤは実によく働く。口はその倍動くが。

 五年前だか六年前だかまでは女遊びも激しかったって言うしさ。それがいきなり不能でゲイって多分そうでもならなきゃやってらんないよーなことが――……と。そこまで言いかけてカヤはふと俺を見た。それからあたし言い過ぎ?なんて首を傾げるもので、俺も思わず噴き出してしまう。

 言い過ぎどころか逆にもっと言ってやれと俺が笑うと、カヤは苦笑いの顔でマスター、オッサンの友達のくせに、と言った。友達だから言うんだ、と言ってやると面白そうに笑う。いいなぁ、そういうの、と言って。そういうの、あたしも言ってみたいなぁ、トモダチってやつ作ってさ。

 作ればいいだろう、友達ぐらい。これからいくらだって作れると言うより、テディの奴はどうなんだ、アイツは友達じゃねえのか。俺が言うと、カヤは不意に真面目な顔を作って俺を見た。そうして、オッサンは違うよ、なんて吃驚するぐらい強い調子で言うもので、俺は目を丸くする。

 オッサンは違うよ。カヤはもう一度、ゆっくり顔を俯けながらそう言った。だってあのひとは、あんまりあたしを自分の内側に入れないようにしてるもの。常に自分の側にだけ一本線を引いてて、そっから先には来るなよって言われてる気がする。お前が入ってきていい所じゃないって。

 だからさっきは偉そうなこと言ったけどあたし、ほんとはオッサンのことなんてよく解らないの。呟いてカヤはほんのちょっとだけ唇を持ち上げて笑った。歳に似合わず大人びたその横顔に、一瞬の揺らぎを垣間見る。そういや俺は、カヤがテディのことを名前で呼んだ所は聞いた事がない。


20100617