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大人のための異文童話集1

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第2話 ガラスの靴



寒い冬の出来事でした。
今日の夜は二人にとって束の間の時間、それはただ一度だけとなる、舞踏会ならぬコンサート。

約束の場所へ着くと、まだ少し雪が舞っていたけれど、すぐに雪降らす雲は旅立った。
その後に見えた夜空には、澄んだ紺青に、小さく煌めく星々が姿を見せていた。

コンサートの場所。
お互いによく知らなくて、冷えてしまった互いの手を結んで少し歩き探し回る。
寒空もこうして歩けば、また、風情あるものと言えようか。

変わった形の交番で訪ねれば、そのすぐ側がコンサートの会場。
そんな…少し間の抜けた世間知らずな二人がまたいい。

ディナーを取りながらの小さなコンサート。
予約の際に遠方から参加と知っての気遣いで、演奏に近い席をリザーブしてくれる優しさが温かい。

若い者はそれほどいる様子も無く、昔ながらのファン達で静かに盛り上がる。
テーブルの下で結んだ手と手も暖かい。

その場を離れるとまた、別々になる二人。
その歌のように、一緒に朝を迎えることなど考えられない二人。

許されるこの時間の中にだけ、互いに結んだ手の温かさを記憶に留めていく。
これといって特別な会話などもなく、心にしみてくる温かさを感じつつ歌を聴く。

コンサートと同じように、食事も終われば限りある時間もやってくる。
ともに過ごした時間、その名残惜さを抱きつつ帰途に付く。

泊まるホテルには私だけ。
くちびるに残った柔らかさが、寝づらい気持ちに拍車をかけた。

馴染みのようで馴染みでない…彼地のホテルで外に見える灯りが揺らいでいた。
指で触れては確かめる。
この唇の感覚はあなたが残したガラスの靴。

あなたを送った後、タクシーの中で運転手と交わした会話が、妙に心地よく蘇る。
「素敵なお嬢さんですね。」
その言葉が私には、今日、一番の喜びだったようにも思える。

寒さの中で、いつまでも手を振るあなた。
バックミラーに映っていたそんなあなたはも、もう居ない。

ほんのひとときと言え、今までに見たことのないあなたを知った胸の高鳴りなのか。
その顔に、その姿に、想い酔いしれもう一度、ガラスの靴に触れてみる。

脳裏を彷徨うのは、コンサ−トで聴いたあの歌のフレーズ。

ある寒い冬の日のお話。
それは魔法使いがくれた特別な時間と、シンデレラが残したガラスの靴のお話。