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寝ずの晩―第3話

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「これは神様に頼まれたんだけどな。どうやらお前の将来のことで話があるらしかったんだ。だから神様は特別に私をお前のところに送り込むのを許し手くれたみたいだ。まあギブ&テイクってやつだな。」
ひいばあは続けた。
「まあ、でも正確に言えばお前が将来授かる子供のことだ。」
ぼくは目を丸くした。なぜなら彼女もいない、もてない自分にそんな話題がふりかかっててくるとは思いもよらなかったからだ。
「冗談きついよひいばあ、僕にはまだ彼女すらいないんだよ。しかも仕事柄で出会いも無いし、そんな僕が子供を授かる?そんなわけないだろ。」
ひいばあはしばらく口をポカーンと開けて、それでいった。
「お前は本当にそういう面では鈍感なヤツだな。お前は結構モテる男なんだぞ。それをお前は華麗にスルーしている。サッカーの中田ヒデのスルーパス並みに華麗にな。まったく運がいいのかわるいのかわからん。」
僕が喋ろうと口をあけるのをさえぎるようにひいばあは続けた。
「まあでもそれも運命なのかもな。でも安心しろ。そしてよろこべ。お前は結婚できる。しかも相手は今お前が思いを寄せているその子だ。」

 その言葉を聞いて、僕は耳を疑った。確かに僕には思いを寄せている娘がいる。彼女とは一ヶ月前に仕事の関係で知り合った。おでこが見えるくらい短く切られた前髪、サイドとバックは普通のショートというちょっと変わった髪形をしていたが、不思議と彼女には似合っていた。透き通るような白い肌をしていて、少しはかなげな、雰囲気を身にまとっていて、彼女を初めて見たときは、まるでこの世の人ではないのではないかと感じたほどだ。
もちろん彼女のことはすぐに職場の中で話題となり、僕らの心を癒すマドンナ的存在となっていた。そんな高嶺の花である彼女を僕は見ているだけで、それだけで満足していた。彼女と深い付き合いになるなんて、おこがましいとさえ思っていた。僕の心を読んだかのようにひいばあは笑った。
「なかなか器量のいい子じゃあないか。私はあの世でその娘の生活をのぞかせてもらったけれど、性格も温厚で人付き合いは良好。いまどき珍しい大和撫子みたいだぞ。ひいばあちゃん応援しちゃうぞまったくもう。」
僕は顔が火照っているのが自分でもわかる位だった。
「でも、自分にはそんな、だって彼女は僕らのマドンナで、そんな付き合うとか結婚するとか…」
作品名:寝ずの晩―第3話 作家名:伊織千景