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ふるさと

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 小学生の頃、そこには吉川という友人が住んでいた。その吉川君のあだ名が『よっつ』だった。
 よしこという女の子の愛称が『よっちゃん』だったから、区別をつけるためにそうなった、と言っていた。
 思い違いをした大人が、いじめられている可哀想な子だと思ったりしなかっただろうか。

 歩行者用の信号が点滅している。
 私は横断歩道の前に立ち止まった。
 この町を東西に走り、南北に分ける道。小学校低学年の私にとっては、この道は国境だった。一人では絶対に越えてはならない一線だった。
 この町の七割の人間が北側に住んでいる。
 市営団地が北西に位置しているうえに、南側の半分近くを小学校が占めていて、南側の住宅地は平屋が大部分を占めていたせいもある。
 私は数少ない南側の子供だった。
 人口が一部に集中しているために、自然と同級生のほとんどが北側の市営団地に集中していた。
 友達は皆、北門から帰ってゆく。私は南へ縦笛の音と帰る。
 町を東西に走り、南北に分けるこの道『中央分離帯』は、私と友達との間に出来た境界線のようだった。
 自転車の使用が許可される学年になると、そのことは気にならなくなった。小学校低学年の二年間だけ私の中に存在していた『中央分離帯』は、今も南側の子供にだけ感じられる存在でいるのだろうか。

 私の脇に、二人の小学生が立ち止まった。信号が点滅しだしたために渡るのを止めたようだ。
 ―― 赤信号、みんなで渡れば恐くない
 そんな言葉が頭に浮かんだ。小学生の頃、合言葉のようにみんなで言っていた言葉だ。
 不思議にも、通勤時間以外には混むことがないこの交差点。
 当時ここに住んでいた小学生で、この交差点の信号を無視したことが無い男の子を見つけることは、ツチノコを見つけるぐらい難しかったのではないだろうか。
 私はこの信号をほとんど守らなかった。早く渡りたい、この境界線を越えたい。そんな想いがあった。この交差点だけが特別だった。
 南から北へと向かって渡るときだけ、私は信号を守れなかった。
 今、私の脇に二人の小学生がいる。車の通らない交差点の信号を守って立ち止まっている。信号を守るのは当然のことだが、私の目にはひどく寂しい光景に映った。

 故郷とはいうものの、ここには父も母もいない。
 それどころか、点滅信号を駆け抜ける子供達さえも、ここにはいないのだ。


作品名:ふるさと 作家名:村崎右近