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秋月あきら(秋月瑛)
秋月あきら(秋月瑛)
novelistID. 2039
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魔導装甲アレン3-逆襲の紅き煌帝-

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 狂気を孕んだアダムの紅い瞳。
「此の星ごと御前ら喰らい尽してくれるわ!」
 大地が揺れる。
 アレンは足を踏みしめ歯を食いしばった。
「くっ……」
 暴風が3人を包む。
 激しく揺れる髪。
 ズシンッと大地が沈んで3人を中心としてクレーターができた。
 小さな稲妻のようなエネルギーが、火花を散らしながら発生した。
 微かに聞こえはじめたヒビの入る音。
 アレンの手に食い込む刃。セレンが握る錫杖の柄にも亀裂が入っていた。
 狂気の形相でアダムは笑いはじめた。
「ハハハハハッ……滅びろ、滅びてしまえ、クハハハハ……ハ……?」
 急にアダムの顔つきが変わった。疑問を浮かべたのだ。
 大地から芽が出て、双葉に分かれた。
 生えてきたのは1つではなく、次々と大地から若葉が芽を出しはじめた。
 大地が緑に染まっていく。
「何事……だ」
 アダムは驚きを隠せない。
 予期せぬ出来事が起きたのだ。
 色とりどりの花が咲いた。
 稲穂が風に揺れた。
 大きく育った木から真っ赤な林檎が地面に落ちた。
 豊穣の香りが世界を包み込む。
 またヒビの入る音。
 〈黒の剣〉の刃に稲妻のようなヒビが奔った。
 憎たらしい糞餓鬼の笑みを浮かべたアレン。
 次の瞬間、〈黒の剣〉が折れた。
「喰らえッ!」
 叫んだアレンから繰り出される拳。
 それは生身の拳だった。
 顔面を殴られたアダムが片足を引いてよろめく。
「……何故だ……何故だ……アレンよ、御前は機械なのか、それとも人間なのか、どちらなのだ?」
「俺は人間に決まってんだろ!」
 止めと言わんばかりの生身の拳がアダムの頬を抉るように殴った。
 吹っ飛ばされたアダムが何度何度も地面を転がる。
 地面に這いつくばり立ち上がろうとするアダムの手には、もう〈黒の剣〉は握られていない。
 力を失ったアダムはやっとの思いで立ち上がったが、背中を丸めて大きく咳き込んだ。
「ゲボッ……ブグッ……ウエェェェ……」
 アダムの口からメタリックの液体が吐き出される。
 芝生の上で蠢くその液体はアダム。
 気を失ったルオはゆっくりと倒れた。
 液体金属の本体となったアダムは、スライムのようにドロドロと動き、まるで手のようなものを苦しそうに伸ばした。
「オオオッ……ウオオオオ……終ワリダ……何モカモ……メギドノ……炎デ御前達モ道連レニ……」
 セレンから錫杖を奪ったアレンは、それでアダムを叩きつぶした。
「私ハ……何者……ダッタノ……ダ……」
 飛び散った液体が光に包まれて消える。
 跡形もなくアダムは消滅した。
 錫杖を投げ捨て倒れるように座り込んだアレン。
「あ〜、腹減った」
 涙目でセレンは肩を撫で下ろした。
「終わったんですね」
 目を指先で拭いながらセレンは空を眺めた。
 背筋が凍った。
 セレンの顔が見る見る恐怖に染まっていく。
「そん……な……」
 巨大な紅い炎の塊が流星のように降ってくる――〈メギドの炎〉だ。
 アレンは大の字になって寝転んだ。
「もぉ〜知〜らねっ」
「アレンさん!」
「死ぬ前に旨いもんたらふく喰いてぇなぁ」
「……いいです、わたしひとりでどうにかします!」
 錫杖を拾い上げ、サファイアの翼を輝かせたセレンは飛び立とうとした。
 その手首が掴まれ引き止められた。
 セレンはアレンかと思って振り向いたが、そこにいたのはルオだった。
「あれを食い止められるのは朕だけだ」
 ルオの手には折れた〈黒の剣〉が握り締められていた。
 闇色の〈黒の剣〉が音すらも吸いこむように静かだった。
 セレンは立ち尽くした。
 そして、ルオは〈黒の剣〉に乗って、遥か空へと飛び立ったのだ。
 アレンは空を見つめていた。
 緑が風に揺れる。
 世界は静かだった。
 それはほんの少しの間だった。世界全体が静止してしまったような感覚。
 ――静寂。
 アレンは瞳をつぶった。
 そして、再び瞳を開けたとき、世界は動きはじめた。

 それから数ヶ月の月日が流れた。
 大地に鎮座している超巨大円盤形飛空挺の前で、セレンがマルコシアスを涙目で見つめていた。
「あの、本当に行っちゃうんですか?」
「この星で我々が暮らしていくのは難しい。すべての機械人を連れて月に行きます」
「また逢えますよね?」
「いつか人間と機械人が暮らせる日が来れば還ってきます」
「わたしが生きてる間には難しそうですね、ぐすん」
 涙を拭うセレンを見てマルコシアスは笑った。
「あはは。ライザ博士が衛星を直してくれたので、いつでも顔を見て通信することは可能ですよ。では、そろそろ時間なので、さようならセレン様」
「あのっ、またお母さんの話聞かせてください!」
 まるで手を振るようにマルコシアスは翼を動かし、あっという間に飛空挺まで飛んで行ってしまった。
 やがて月に向かって飛空挺は飛び立っていった。
 セレンは見えなくなるずっとずっと手を振り続けた。

 丘の上は風が強かった。
「ったく、煙草に火が点かねぇ」
 トッシュは口の煙草をポケットの押し込んでから、辺りを見回した。
 杖を突いた少年が見えた。
「おーい!」
 トッシュが手を振って叫んだのに少年は気づいて、岩場を飛び越えてやって来た。
「なんだ用か?」
 片言なのか、ぶっきらぼうなのか、そんな口ぶりだった。
「この辺に墓があるはずなんだか、見たことないか?」
「んっ」
 少年は杖の先でその方向を示した。
「ありがとな坊主」
 トッシュは少年に礼を言って駆け出した。
 それは粗末な墓だった。大きな石の土台に、それよりも一回り小さな石が積み上げられている。花が供えられていなければ、それが墓石だとわからなかったかもしれない。
 花を供えた者は墓の傍に立っていた。トッシュもよく知っている者だ。
「久しぶりだなジェスリー」
「こんなところで会うなんて、奇跡の確率です」
 供えられている花を見たトッシュは、さっきの煙草を1本、花の横に置いた。
 すぐにジェスリーが突っ込む。
「ジャン博士は煙草をお吸いになりません」
「死んでるんだから関係ないだろう」
「……ありがとうございます」
「ん? ああ、礼を言われることじゃない。ちょっと近くを寄ったからついでだ」
 この辺りはなにもない土地だ。
「少しお話してもよろしいでしょうか?」
 と、ジェスリーが切り出した。
「どんな話だ?」