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杜若 あやめ
杜若 あやめ
novelistID. 627
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桜の下には

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「うわあ・・・・」
夜空にほの白く浮かび上がる桜を見て、
私は感動のあまり、ため息をついた。
もうちょっと頭のよさそうな表現の仕方はないかな。
とチラッと思ったけど。
私は本もろくに読まない主婦だから、何も思いつかない。
ただ、もう一度桜の木を見上げ、うわあ。と呟く。
ここは小さな公園で、しかも飲食が禁止されているから
花見という名の馬鹿騒ぎをする酔っ払いもいない。
その分ライトアップなんて演出もないが、
都会の空は住宅の明かりだけで夜中でもぼんやりと明るいし
道路には街灯もある。
それに、かえってこの暗さの方が余計に桜の白さが際立って
美しく見えるような気がする。
私は顔を上げたまま、ぶらぶらと公園の中を歩いた。
人にぶつかる心配のない、一人ぼっちの特権だ。
こうして、夜中に外出するなんて何年ぶりだろう。
独身時代はそれなりに夜遊びもしたが、子どもが生まれてからは
暗くなってから家を空けたことはない。
「そういえば、よくパパと夜の公園を散歩したっけ」
まだ新婚だったあの頃は、自分だけは疲れたような格好で
子どもを公園で遊ばせるようにはなるまいと思ったのに、
気がつけば、部屋着とかわらないような格好にすっぴんのまま
子どもと公園に出かけるような、りっぱなおばさんになってしまった。
「パパが冷めるわけよねえ」
残業を口実に帰りが午前様の毎日に、私はさしたる疑問も持たなかった。
でも、ある日本当に久しぶりに夕方駅前に出かけた時、見つけてしまった。
夫が若い女性と私には久しく見せたことのない「男」の笑顔で
手を繋いで歩いていくのを。
帰ってから問い詰めたら、一言
「お前に女を感じなくなった」
ですって。頭に血が上って飛び出しちゃったけど。
私も子供にかまけすぎていたかもしれない。
うん、私も悪い。反省しよう。
明日は子どもを母に預けてデパートに行こう。
春の服と化粧品を買ってみよう。
こんな桜みたいな、かわいいピンクの口紅なんてどうだろう。
夫はちょっとごつい外見だけど、かわいいものが大好きなのだ。
それをつけて、夫とこの夜桜をもう一度見にこよう。
そうすれば、きっとなかなり出来る。もう一度やり直せる。
「そうしよう。がんばろう」
ちょっと独り言には大きな声で言ったとき、
「ああ。」
と驚いた声が聞えた。
作品名:桜の下には 作家名:杜若 あやめ