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文殊(もんじゅ)
文殊(もんじゅ)
novelistID. 635
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体内に潜む鶏の卵

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「卵くらいの、大きさなんだってな」
「何の卵よ」
ウズラなのか、ダチョウなのかすらはっきりしない。
そう言わんばかりに突っ込むと、それくらいわかるくせに、と言いながらも「ニワトリ」と続けた。
「こんくらいね」
手で大きさを示すと、頬杖をつきながら何か呟いた。
円香が無言で視線をきつくすると、頬杖をやめて背筋を正した後に呟きの説明を始める。
『あぁ、ごめん』
別に顔をしかめたのは嫌だったとかそういうのじゃないから、と言いたかったがやめた。また気にする。
「男だから一緒に苦しめるわけじゃないけど、少しでもなにかするから」
円香が、目を丸くする番だった。
どういうことだ。
馬鹿正直に言葉のまま捉えるなら、話の流れからして出産のことを言っているとするのか。
待てよ、と考えを落ち着かせてなおかつ流れを汲むなら、生理痛のことを言っているのか。
「……しょうちゃん」
「はい」
その呼び方は恥ずかしいからやめてくれ、とも言わない。いつもなら言うくせに。
馬鹿正直に、まっすぐな目で見つめてくるのを、耐えられなくて目を逸らしそうだったがどうにか堪える。
「ここで言うか」
「ごめんなさい……」
言葉と裏腹に笑っている相手の顔を円香の細い指がつねった。力はそう強くないそれに、痛い痛いと言いながら。
「笑わないでよ」
「笑ってないよ、痛い痛い……」
なんでこんな色んな人がいる場所で。誰も聞いちゃいないだろうが、恥ずかしい。
しかも昼下がり。円香の中で最も気だるいと思われている午後三時くらいに。
まだ、円香は二十歳になっていないのに。二人とも大学生の身であるのに。

「円香の体にある卵を一緒に守って、育てさせてください」

「……定職見つけてから、言ってください」
切り返しが厳しいなと言うも、恋人は少しだけ赤い顔で微笑んでおり。
厳しいわけない、当然でしょうという円香の頬は一気に上った血で心配になるほど赤かった。