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戦場の兵士

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戦争は何故起こるのか。誰も戦争をしたくないはずなのになぜ、こうも戦争が引き起こされるのか。それを相棒のサムに聞いたら笑われた。
「そりゃ、おめぇ。戦争をすることで得する奴がいるからだろう。」
 全くその通りだ。だったら誰が得をするのか。少なくとも俺は戦争で得をしていない。戦場に行って儲かるものではないし、負ければお手当も全て紙切れになってしまう。
「そうだね。ではまず、戦争を起こす者という事から考えてみよう。」
 理論家でここに来る前は大学の助手をしていたらしい俺のもう一人の相棒、カリスが蝋燭の僅かな光で読んでいた本を閉じて俺の方に目を向けた。
「戦争を起こす奴ってったら、そりゃあ政治家だろう。我らが敬愛する大統領閣下って訳だ。」
 サムはまるで得意げに鼻を鳴らすが、カリスはヤレヤレと肩をすくめた。
「私は大統領閣下が戦争をしたいとは思わないね。閣下は元々好戦的な方ではないはずだ。それに、閣下は取り立ててこの土地に由来のある方でもないし、ここの鉱山の利権を持っているのは副大統領の方だ。」
 俺には難しいことはよく分からないのだが、ひとまずカリスの言う事に頷いた。おそらくカリスの言うことだから間違いではないのだろう。
「だけどよう。これから戦争するぜって国民に宣言するのは大統領閣下だろう。だけんども閣下は戦争をしたくないってんなら、始めたのは副大統領か?」
 サムは納得がいっていない。直接聞いたわけではないが、サムは典型的な愛国主義者で今の大統領を殆ど愛していると言ってもいいほど敬愛している。
「君は単純な奴だな。いいかい、副大統領は確かにここの鉱山の利権を持っているが、20年前の大戦では前線の歩兵をしていたことは有名だ。そんな人物が戦争好きであるはずがないし、そもそも副大統領にそんな権限はない。」
 サムは単純と言われて鼻を鳴らすと、残り少なく貴重な葉巻を取り出した。俺は何も言わずにサムに火をくれてやった。サムは一つ前の戦闘でマッチをなくしてしまっていた。ちなみに俺は酒を置き忘れてきた。珍しく上物が手に入って飲むのを楽しみにしてたのについていない。今頃俺のコニャックは仲良く敵兵の腹の中に収まっていることだろう。それを思うと敵に対する憎しみが少しだけ増えた。我ながら単純なものだ。
「副大統領じゃねえんなら。ひょっとして官僚共か?」
作品名:戦場の兵士 作家名:柳沢紀雪