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杜若 あやめ
杜若 あやめ
novelistID. 627
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愚痴をこぼす相手

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私はがんばって、人からうらやまれるような会社に入った。
雑誌によく載るブランド物を手に入れ、いいところに住んで、顔もスタイルも悪くない。
みんなが私をうらやましがる。賞賛のため息をつく。
私は幸せ。あとはドラマか映画のような夫を手に入れれば完璧で、それもきっともうすぐ手に入る。
だから、「愚痴」なんてボロを出すわけにはいかない。みんな
他人の不幸をまっている。妬みや僻みは些細な話を何倍も膨れあげる。
所詮友達も他人だ信用できない。
しかし、溜め込んだ不満は徐々に膨れ上がっていく。
話したい。でも話せない。
そんなジレンマにもんもんとしていたとき、私はこのサイトに出会った。
「ここは現代のざんげ室です」
と管理人は書いている。
「神ではなく、お互いが選んだもの同士罪を告白しあい、許しあうのです。
ペア同士は会うことも、連絡を取り合うことも禁止です。
接点はこのサイトだけ。そして、嘘も禁止です。
お互いのすべてをさらけあってこそ、姿が見えずとも
信頼が築かれるのです。前世からの友人、ソウルメイトのように」
私はこれに飛びついた。これなら私の知らない人に、批判を受けず、
思い切り愚痴がいえる。
私と同じ思いの人は大勢いるらしく、登録者は大勢いた。
ようく吟味した上、私は「サトコさん」を選んだ。
わたしより5歳年上の女性だ。
「サトコさん、聞いてください。今日彼とデートしたんですけど
彼ったら給料前で金欠だって、吉野家の割り勘だったんですよ
あんまりですよね。来月の誕生日が心配」
書き上げた文章を、早速送信する。
私はこのサイトの中ではフリーターで、バイトの同僚と付き合っている
ということになっている。嘘はいってない。ただちょっと脚色しているだけだ。
登録制とはいえ、所詮は匿名のネットの中。本当のことを書く人などいない。そうにきまっている
「こんばんは、せっかくのデートだっていうのに、残念だったわね。
でも若いんだから、そのうち贅沢はいくらでも出来るわ。
私も今日はデートだったんだけどね・・・・・」
サトコさんの返事はだいたい30分以内に来る。どうやら生活パターンが
似通っているらしい。
サトコさんは、小さなアパレル会社の社長で年下の彼がいるらしい。
「がんばって最新スポットのレストランを予約したのに、彼ったらそんなに喜んで
作品名:愚痴をこぼす相手 作家名:杜若 あやめ