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杜若 あやめ
杜若 あやめ
novelistID. 627
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愚痴をこぼす相手

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「じゃあ、またね」
さわやかな声を残して、銀色のBMWは発進した。
私はテールランプが見えなくなるまで、一応笑顔をキープする。
日曜の夜10時。プロポーズ秒読みのカップルのデートの終了時間
としては、妥当だろう。
「今夜のデートは95点」
誰もいないエレベーターの中で、私はつぶやいた。
東京イブニングタウン。小洒落た名前のついたビルの中は高級ブランド店で
ぎっしりで、日本発上陸、とうたったレストランの長蛇の列を横目で見ながら、
彼に手をとられて個室に案内される時は、心の中で躍り上がっていた。
「でも、何にも買ってくれなかったわ」
ウインドウをみながらステキ、かわいいを連発したのに、
誕生日、もうすぐだろう。その時までのお楽しみさ。
そう言って誤魔化されてしまったのがマイナス5点の内訳だ。
「まあ、つぎのお楽しみ、ということにしておきましょ」
自分に言い聞かせるようにつぶやいた時、エレベーターの扉が開いた。
東京タワーが見える場所にあるマンションの17階の一室。
ここが私の家だ。
遊びに来る友達はそろってステキねえとため息をつく、私の自慢のお城。
玄関で華奢なヒールの靴を脱ぐと、ほっとした。
外見のかわいい靴は、履き心地と正確に反比例していると思う。
短い廊下を歩きながら、私は次々と服を脱いでいく。
流行のコート、有名ブランドのロゴがさりげなくデザインされたワンピース、
足を細く見せるストッキング。最後は胸を寄せてあげるブラをとり、
着古した、トレーナーに袖を通しながら、パソコンのスイッチを入れた。
シートタイプの化粧落としで顔を拭きながら、立ち上がりを待つ。
何種類もの化粧品でかきあげたメイクは、何枚もの薄い紙に汚らしい抽象画を
描いていく。
椅子の上に立てひざをついた姿勢で、私はマウスをカチカチとクリックした。
画面に現れるパステル調で描かれた、ハート、そしてソウルメイトの文字。
ここ数年利用者が爆発的に増えた、匿名性告白サイト。
登録した人間同士、ペアを組んで、“絶対に会わない”ことを条件に
お互いの秘密を告白する。
パスワードを入力し、私はペアを組んだ「サトコさん」に今日のデートを
早速報告する。もちろん、マイナス5点の分だ。
職場や、昔の同級生といった「友達」には、絶対いえない愚痴を
10本の指が軽やかに綴っていく。
作品名:愚痴をこぼす相手 作家名:杜若 あやめ