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たゆたう君へ

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タンスを横倒しにしたような棺は、あまりにも場違いに見えた。和室の畳の上と言えど、見慣れた家にそれが置かれているところなど今まで想像したこともない。目の前に置かれた今も、違和感ばかりが際立っている。
 白い房の付いた取っ手は、引けば簡単に開くだろう。その中の状況も、大方予想できた。
 たぶん白い菊が敷き詰められており、その上に白装束を着せられた遺体が置かれているのだ。目は瞑り、手を胸の上で組み、少しでも奇麗に見えるように顔に化粧もされている。きっと仏が十代の少女なのだからそれは普段より念入りにと、気を使ってあると思う。
 奇麗な遺体がそこにはあるはずだ。
 しかし、その小窓を開く気にはなれない。どうしても。
 そこにいるのは、確かに死んだもの。
 屍骸。
 今までの、生きて、見知った人間ではないものだ。それを見るのは躊躇われた。生きていた頃の記憶が鮮明過ぎて、死んだと実感できない。
 だけど、きっとだからこそ、見なくてはいけないのだ。
 一人の人間が死に、もう生きてはいないのだと、残された者たちはそれを受け入れるために見るべきなのだろう。
 葬式の中でよくある、最後のお別れを、と言って小窓が開けられるのは、確かにその人は死んだのだと理解し、受け入れ、これから生きる日々の中で惑わないようにという意味も込められているのではないだろうか。

 手を伸ばしてみる。棺の表面は驚く程滑らかだった。
 中に人間が入っているなどと思えない程、その表面からは温度が感じられない。
 木目に指を添えてみる。棺からは、当たり前のことだが、微かな反応すらも返らない。
 息を殺し、気配を探る。横たわった人間がそこに入っているとあらかじめわかっていても、やはり何の気配も感じ取れない。
 死ぬとは、こういうことだと、改めて思い知る。
 一片の気配すらこの世に残さず、いっそ潔いと思う程に何もかもを棄てていくのだ。
 生前、何よりも大切にしていたものすら、持っていくことはできない。

 深呼吸をして、白い房を掴んだ。周りに誰もいないことを確認し、力を込めて引いてみる。
 それは思った以上に容易く開き、まだ心の準備もできていないというのに、容赦なくその姿を眼前に晒した。

作品名:たゆたう君へ 作家名:久慈午治