小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」

ひとりかくれんぼ/完結

INDEX|29ページ/35ページ|

次のページ前のページ
 

5月28日 04:29(金)





 確かな感触があった。あれは人の手の感触、確かに質量を持った…でも、違う。あれは人間でもない。恐ろしさに体が震えていた。怖い!怖い、この状況で外に出ろとか、無理だろ!クローゼットの中で膝を抱えて、体の震えを抑えようとした。落ち着け、落ち着くんだ。思うほどそれは空しい。音が…あの俺を探す音がすぐ近くでするというのに。それにしても何で、何で入ってこないのか?実体があるってことか?見つかっているのに、入ってこれない理由はなんだ?実体があるとするなら、あれは誰だ?長瀬なのか?そうしたら、ななは?ぐるぐるといろいろな思考が頭の中で駆け巡るが、何一つとしてピンと来ない。いや、頭の中を引っ掻き回すだけで、明確な回答を導き出せるほど綺麗にまとまっている訳ではない。ただの現実逃避かもしれない。怖い、という感情が勝る。

 トン、トン、トン…
 トントントン…

 すぐ近くで、耳元でそのノック、テレビの砂嵐。ザーザーという音は、不安を煽る。だからと言って、他にどうしろというんだ。その時だった。

『もしもし…』

 微かな声が聞こえた。心臓がドクンとなって、振り返る。そこには、画面が光っているななみの携帯だった。思わずその携帯を手に取る。通話時間、04秒、05秒とデジタルの数値が指し示す。

『もしもし…!』
「今井…!?」

 思わず塩水を飲み込んで小さく叫んだ。やばい!と思ったが、相変わらず後ろからはノックの音だ。大丈夫なようだ。携帯を耳に当てて呼びかける。

「今井!?今井か!?なんで、電話通じたのか!?」
『知らないよ、君からかけたんじゃないの?』
「かけてねえよ!今、見たら、ななの携帯、ついてて…」

 言うべきか。今の状況を。ななが、もしかしたら、長瀬を…って?一瞬の迷いは、今井の言葉にかき消された。

『まあいいよ、落ち着いて聞け。君が指した人形、もしかしたら、長瀬祥子かもしれない』

 ぐさり、と言葉が突き刺さる。疑っていたこと、疑いたかったこと。それがクリアに見えてきていた。声が出なかった。

『色んなことはハブく、察せ。ともかくその人形自体が、君の妹によって長瀬の身代わりになっている。ひとりかくれんぼって、要は呪いの説が高いんだろ?名前をつけた人形に、自分の体の一部を入れて自分自身に呪いをかける。それをすべて君の妹は、長瀬の名前、長瀬のもので行った。つまり、君の妹が長瀬に呪いをかけたんだ。ひとりかくれんぼの儀式にのっとって」
「…な、んで、妹が…ななが、そんな」
『そんなのテメーの妹に聞け。あくまで憶測だけどな、不自然な点が多いんだよお前の妹。嘘ついてばっかだし』

 嘘ついてばかり。
 きっと、ただこの今井の言葉だけならば俺はそれを信じなかっただろう。しかし、ななの日記を見てしまった。確かな、確証を見つけてしまったあとだ。かばい切れず、悔しくて…ぐっと喉元から何かが競りあがってくるような感覚がした。

「…たぶん、そうかも。俺も、そんなん、見つけたから…」
『そう、なら話は早いな。長瀬はもうヤバイかもしれない。呪いの発生がナイフを刺すことだとしたら、2回だ。繰り返し、長瀬は呪いを受けてる。形式的に見てみても、助かる見込みは低いな』
「待てよ。待て。じゃあ、え?どういうことだ?」

『…ひとりかくれんぼは、自分自身を呪うわけだ。だから本来、妹が儀式を行う場合、人形イコールお前の妹ってことだ。それを通常通り終わらせられていれば、妹は自分にかけた呪いを終了宣言で呪いを解くよな?私の勝ちってやつだ。でも、今回は人形イコール長瀬だ、妹が人形に終了宣言したところで、長瀬への呪いは解けずにそのままだ。しかも、今回はあろうことがしくじったんだろ。君の妹は長瀬に捕まった』
「そしたら、え?長瀬は?長瀬は鬼から開放されるんじゃないのかよ?長瀬はさっきこの部屋にいた、変な…化け物みてえな…見たんだよ、ほんと!今、後ろ、叩かれてんだよ…!」

 必死に言うと、うるせえと一喝されてしまって、思わず黙る。

『かくれんぼの明確なルールって知ってるか?俺、さっきwikiで調べたんだけど』
「え?」

 今井は淡々としゃべった。場違いなくらいに、その声のリズムは明快だった。

『鬼は子供を見つける。一番最初に見つけられた子供が鬼になる。それが、自分と自分の分身でやるわけだから、ひとりかくれんぼ。でも今回は実質2人でやってるわけだ。自分じゃない、他人を呪うことによって。長瀬が鬼で、妹が一番最初に捕まった』
「っつーことは、俺が部屋に来た時点では、ななが鬼だったのか」
『しかし、君が割り込んで宣言をする。俺が鬼だって』
「一回目の宣言か?あれは無効だ!3人で、鬼をするって」
『ここからは憶測だよ。でも、かくれんぼの形式にのっとるのなら信憑性は高い。いいか?見つかった2人目以降の子供は、鬼にはならない。ただの子供になって、また隠れるんだよ。かくれんぼの鬼はいつだって、必ず1人だ。つまり、3人が鬼の宣言はでたらめで、無効だったってことなんだよ』
「…っ!」

 そんな、と声を声にならない声が出た。
 今井はその声にさえ、反応しない。冷たく話す。

『君が割り込んで、鬼になる。鬼の君は、長瀬イコールの人形を刺し、鬼とする。でも、実際、隠れるべき子供は2人だ。言ってる意味わかる?鬼の役目は1人探して終わりじゃない。2人、つまり全員見つけて始めて終わるんですよ。だからこの理論でいけば、君はまだ鬼なんだ。妹を探さなきゃいけない』

 たしかにかくれんぼのルールはそうだった。一番最初に見つかった子供が鬼で、それ以降に見つかった子供は次のかくれんぼが終われば隠れる。しかし、全員見つけない限り、かくれんぼは終了しない。だから、そうか。さっきの長瀬みたいなヤツを俺を見つけても何ともならなかったんだ…俺がまだ、鬼だから。

「…じゃあ、ななは、まだ…」
『隠れているはずだ、どっかに。君の近くにいる長瀬とやらは、おそらく見つかったから出てきただけでしょ。妹を探して「みつけた」って宣言すればいい。そうすれば、最初に捕まえられた子供の長瀬に鬼の権利がいく。そうしたら妹を隠して、君が儀式を終了させる。今、焦って終了させたら、妹の行方がマジでわからなくなるぞ。憶測だけどな』

 しかしそこでひとつ、疑問が生まれた。

「ちょっと待てよ。じゃあ、なんで俺がこの家に帰ってきた時点で、長瀬までいないんだよ。ななを見つけた長瀬は鬼から開放されたはずだろ!」
『長瀬自体が呪いの発生源にされてんだ。つまり、本当に長瀬イコール人形って考えた方がいい、呪いの発生源がそう簡単に開放されると思うか?』
「……」

 長瀬が呪いの発生源だとしたら、この場に縛り付けられている。終了宣言をしてあの人形を儀式から離脱させない限り、長瀬も…ってことか。
 そうしたら、早いところななをみつけなければならない。しかし、

「見つけるって、どうやって…」
『分からないよ。あとは自己責任でやってよ、俺は知らない』
「長瀬は、どうなるんだ…」
『鬼の状態で強制終了食らうんだから…ただでは済みそうにないね』
「そんな…」