小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」

ひとりかくれんぼ/完結

INDEX|23ページ/35ページ|

次のページ前のページ
 

5月28日 04:05(金)




 耳元の郵便受けから、隣の部屋のドアが開く音が聞こえた。電波のない携帯が微かな光をうみ、それが時刻を教える。でも、それもいつの間にか見なくなっていた。何もできずに待つ時間は精神的によくなかった。目の前には水浸しのテディベアが置いてあるが、それだけで恐怖に気が狂いそうだった。俺は今井を信じて待っている間ずっと、外に出たら見たいアダルトビデオについてひたすら考えていた。エロいこと考えると幽霊いなくなるとか聞いた、多分。そんな不確かな情報にも頼った。藁をも掴む思いだった。
 しかし、その藁よりもはるかに頼れる今井のドアの音。思わず、声を荒げた。

「今井!何かわかったか!」

 ドアが軽い衝撃が走った。今井がドアを蹴ったのだ。

『今しがた、妹の友達が俺のとこに来た』
「はあ!?」
『うるさいよ。ちゃんと聞こえるから、もっと静かにリアクションして』

 今井は面倒そうに、事のあらましを喋った。妹の友達、愛川さんと長瀬さん。ひとりかくれんぼの顛末と、妹だけではなく、長瀬の失踪。それも現場は俺の部屋。しかし、俺の部屋には2人の跡形もない。ひとりかくれんぼの2時間のタイムリミット。そして、2ちゃんねるの自称霊能力者の情報。
 一番最後の情報に、俺は耳を疑った。

「死んでる、とか…やめろよ」
『まあ、一人が、とは言ってたし、所詮自称だからな。あと、妹が何か嘘吐いてないかってこと』
「嘘?」
『妹はテンプレ通りやるって宣言してたけど、どっか違う箇所があるらしい。あと、爪じゃなくて髪を入れてる。それ以外で何か嘘ついてるかもしれない』
「髪?髪って、そんな…髪は爪よりもまずいってどっかに」
『そこまで知らない。まあそんなとこだな。有力なアドバイスはないみたい。ただ俺の部屋に塩盛るっていうアドバイスは貰った』
「おい」
『俺は被害者だからな。優先して守られるべきだ』

 今井はしれっとそう言った。
 とにかく、やるしかないらしい。

「手順は、どうしようか」
『宣言までは終わっている。ぬいぐるみの名前は「チコ」だ。掲示板によればな。嘘なら元も子もないが…名前は、新たにつけるか?』
「仮にななみが捕まっているとしたら、ななみが鬼だから…でも長瀬っていう子も次に見つかっているはずだから…長瀬が鬼?」
『どちらにしろ、最後に人を刺すつもりか?やめとけよ』

 そう言われればそうだ。

『それに、今は強制的にお前が鬼って宣言したんだろ?』
「でもななと長瀬さんが見つからないってどういうことなんだよ?鬼に見つかったから?でもルールは鬼に見つかったら鬼交代だろ」
『勝っていない上に、終了宣言してないみたいだからな…』
「分かった」
『何が?』
「宣言すればいい。鬼は、俺とななみと、長瀬さんだって」

 宣言という文言が重要だ。そう付け加えると、今井ははあ?と訳が分からないという反応をする。俺は更に付け加えた。

「たとえば、今現在、捕まっているor鬼である可能性のあるななみと長瀬さんを、俺たちが鬼だと再宣言することによって、無理やり解放するor俺が仲間になる。そうすれば、俺とななみと長瀬さんが鬼だ。そうして、鬼の一人である俺が人形を刺す。そうすれば、鬼の権利が俺たちから人形へ移る。鬼が捕まえなきゃいけないのは、俺とななみと長瀬さんだから、この二人がここで出てくる可能性がある。
 もしくは、鬼の一人である俺が人形を刺せば、鬼の権利が人形へ移り、鬼である人形とななみと長瀬さんの3人が俺を探す筈だ。そこで俺がななみと長瀬さんを見つける」

 理論的に言えば、可能な筈だろう?尋ねると、暫く今井は考えて答えた。

『出てくるって、どういう風に出てくることを期待してるの?』
「ゆ、幽霊とか?いやいや!実体で出てくるだろ!それで、塩水をかけて保護して、俺が高速で人形に終了宣言する」
『…保証はないし、穴だらけだけど、俺も残念ながら何も思いつかない。イチバチだろうが…塩水はあるの?準備できる環境?』

 今井は呆れたような声で言っていたが、一応は心配してくれているらしかった。
 俺はゆっくりと立ち上がった。

「大丈夫だ。ちゃんとある。ペットボトルはないが、一升瓶がある」
『あ、ちょっと待っててよ』

 ドア越しに音が聞こえて、今井は一度、家に戻ったらしい。しかしすぐにまたドアが開く音がする。そうして、ドアのポストから、何かが差し込まれた。暗くてよくみえない。

『これ持ってなよ』
「え、なんだこれ」
『お守り。ないよりマシだろ。ポケットにでもいれとけ。あと、隠れるのはクローゼットの中だろ?備え付けの。そこの壁はさんだすぐ傍にいてやる。大声で叫べば、聞こえるかもしれないから』
「お前…」

 いつになく、今井が優しかった。いつも辛らつなのに。初めてこいつと友達でよかった、と思った気がした。思わず感動しながら、渡されたお守りを目を凝らしてみる。しかしそこには、



   【 合 格 祈 願 】



 …ないよりマシって、本当にそのレベルだろうな。これは今井の善意なのか、嫌がらせなのか…いや、善意として取っておこう。


「…あ、ありがとうよ」
『ちなみに俺はそれで第一志望は落ちている。俺の怨念が詰まったお守りだから、効果あるかもな。まあがんばれ』
「……はい」


 妙な脱力感と共に、ドア向かいでまた音が聞こえた。恐らく部屋に戻ったんだろう。合格祈願はポケットにしまって、それでも妙な緊張は解れた。さて、問題はここからだ。大きく息を吸って、吐いて、俺は人形に向かい合った。