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漆黒のヴァルキュリア

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第一章 戦乙女とお供のカラス 11



 桜並木の間を、人々が行き交う。
 冬が終わり、春を告げる色彩。この時期には、様々な感情が季節を飾る。
「良かったわねぇ、タクちゃ〜〜ん!」
 喜び。
「……なんで合格できないのっ?」
 怒り。
「よく頑張ったわ。残念だったけど、公立もあるし……」
 悲しみ。
「まぁいっか。うちの子だもんね? 美味しいものでも食べに行こっか?」
 楽しみ。

 合格発表は、中等部の校舎、昇降口の前に張り出されていた。
「紳ちゃん……あ、あった」
 天才児・戸川紳太。彼を示す番号も、そこには表示されている。それを見て、母親は――
「ま、当たり前ね。私とあの人の子なら。……いい、紳ちゃん? これからが大事よ? ここまでは出来て当たり前。これから先が大事なの……」
 息子の顔を見ずに、母親は繋いだ手を握り締める。
「……はい。がんばります。お母さん……」
 そんな母子の様子を、エナとムニンはすぐ傍で見ていた。
「……この子、幸せなのかしら……」
 相変わらずの無表情を見せている紳太。その顔を見据えながら、ムニンが呟く。
「……さぁね……」
 エナもまた、言葉少なに呟く。
 そんな彼女たちの顔を、不意に紳太が見つめた。
『……え?』
 エナとムニン、二人ともに思わず顔を見合わせる。
「ぐ……偶然だよな?」
 言って、エナは少し左に移動してみた。
 紳太の視線も移動する。
 今度は右に移動する。
 紳太の視線もついてくる。
 ふと、紳太が微笑った。子供らしい、無邪気な笑顔だった。
 そして――
 紳太の身体が突然くずおれた。
「し、紳ちゃん?」
 突然、手の中から抜け落ちた、息子の手。母親は、一瞬何が起きたのか理解できずにいるようだった。