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早稲田文芸会
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夜明け前(奥貫佑麻)

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国道沿いのアダルトショップで、プラスチックのオモチャの手錠を買った。ピンク色のそれを見つけたとき、頭の中のヤエコにいちばんしっくりきたのだ。ヤエコは大学の講義で知り合った女で、たくさんメールしてきたりメシに誘ったりしてくるから、色々あって付き合うことにした。そいつを椅子に座らせてから手錠をかけて、目隠しをしたイメージがサマになっている。痩せていて肉がないせいで、縄でしめる感じは今一つなんだろう。その点、手錠ならヤエコの細くて骨ばった手首にピッタリだし、静脈の浮き出そうな足首にもハメてやりたくなる。青白い肌には、ファンシーなカラーリングの手錠の方がアンバランスでエロいに違いない。
家に帰ってビニール袋から手錠を取り出し、レジのテープをはがしてゴミ箱に捨てる。アダルトショップもやっぱ店らしいことするんだなーとか改めて思う。カバンから古本屋のエロビデオも引っ張って、とりあえず一本目の「新婚四ヶ月Fカップ人妻 夫の同窓生マッサージ師に寝取られて」というタイトルのやつを一〇分くらい流す。最初のペッティングのシーンが終わり、期待はずれだったかどうかはとりあえず置いといて、いったん止める。冷蔵庫のものでメシをつくって食って風呂に入り、ヤエコと二時間くらいメールして寝る。でもピンク色の手錠を買ったということ、それが今おれの部屋にあるということ、そしてそれをいつかヤエコに使うことを考えるとワクワクしてうまく眠れない。
いつの間にかおれは手錠を自分の手首にハメたいと思っている。まず自分がその不自由な苦しさや痛さを味わって初めて、相手の顔色から気持ちを読み取れるのかもしれない。ヤエコとの本番にそなえて、先におれがやっておくべきだ。そう思って手錠をつけ、カギでロックしてみる。どんなに力を入れても外れそうになく、間のチェーンがガシャガシャ音を立てるだけだった。鈍い痛みが骨にじんわりと伝わり、何かに負けたような気分でいっぱいになる。そういえば、ヤエコがおれに手錠をかけるという逆パターンはあるのだろうか? Mなはずのヤエコが逆上するなり、新しく目覚めるなりするとか。
正面にヤエコが立ち、「今日はいつもの反対でやってみようよ、不公平だもん」と笑っている姿を思い浮かべる。ただ手錠をハメただけでは満足できないようで、一旦それを外し、ベッドの脚に回すようにしてロックしなおす。おれは床に這いつくばる格好になって、ヤエコが見下してくるのを、なんとか首をねじって見上げなくちゃいけない。ヤエコのストッキングの足がおれの脇腹を柔らかく踏みつける。そんなことを考えながら自分で自分を縛りつけていた。あ、これ、いいかもしんない。ヤエコと次のプレイするときはベッドの脚に固定してみよう。おれはシミュレーションを終えて手錠を外そうとしたが、大切なカギがどこにあるのか分からなくなってしまった。というか、自分でカギをかけたんだから指の間にでも持っているはずなのに、何もない。床かどこかに落としたのかと思って探したが、どんなに体をよじってくまなく探しても、それっぽいものは全く見つからなかった。カギは急にこの部屋からすっかり形をなくしてしまったのか? ヤエコがそのカギを持って、声を上げて笑いながら部屋を出ていく様子が頭に浮かんだ。今おれから見えるのは、午前二時を指しているDVD&ビデオプレイヤーの時計とその上のテレビ。それから、ちょっと首をひねると窓の外。そしてホイール付きの椅子に載っているケータイが充電中を示すランプの点滅だけだった。