I hate a HERO!!
また余計な前置きがツラツラと書かれていたがそれは無視して知りたい部分だけ探せばそう言うことらしい。
「そうなのよねぇ…」
母さんは頬に手をあてて言う。
「英お兄ちゃん。ここにいるよね」
鞠愛が改めて確かめるように俺を見る。
「いるねぇ」
兄貴も同じように俺を見る。
つまり……。
「えっと、考えられる可能性は二つとしてハッタリか若しくは…」
「誰かが間違えて捕まってるってこと」
珍しく真剣な顔をした母さんは、一枚の写真を翳していた。そこに写るのは。
「恵登っ!」
「きっと保護プログラムのせいで通う学校は突き止めてもひでくんの顔まではわからず誰かにそれとなく聞いてみたんでしょうね」
『宝田英雄君ってどの子かな?』
「それで…一緒にいた恵登が間違えられたのか…」
兄貴は美形だ。今の状況でそれを言うのは別にふざけているわけじゃない。俺の通う学校まで突き止めたということは兄貴と弟である俺の両親がサイレントの二人であることも突き止めたはずだ。つまりは遺伝子の常識から考えて顔を隠してた地味な俺ではなく、美少年と形容されることの多い恵登が兄貴の…深闇の弟であると勘違いしたんだ。
俺と恵登は常にと言っていいほど二人でいる。“俺”がどこにいるか聞かれた時だってきっと恵登はいた。
「俺のせいで恵登が…っ」
何の躊躇いも無い動きで紙に書かれた場所に向かおうとした俺を止めたのは母さんでもなく、兄貴でもなく、鞠愛だった。
「鞠愛離せっ「英お兄ちゃんが言ってどうするの?」っ…恵登は俺に間違えられてんだぞっ!なら俺が言って恵登が兄貴の弟じゃないって「でも、英お兄ちゃんが思ってるより状態は面倒くさいことになってるよ」
そう言って今まで全く存在を忘れていたテレビ画面を指さした。
「!」
そこには一目見て使われていないと察することのできる古いビル。その屋上に明らかに怪しい姿をした男と男に首元を後ろから掴まれて動けない親友の姿があった。
「たぶん、恵登くんお兄ちゃん、きっと浚った奴に自分が英お兄ちゃんじゃないって言ってないんだよ」
「どうしてっ?」
「だって恵登くんお兄ちゃんって英おにいちゃんのこと大好きじゃん。自分が違うなんて言ったら今度は英おにいちゃんに危険が行くのわかってて言わないよ」
そう言われて、恵登ならやりかねない。そう思って歯がゆくなる。
「んで、否定しない恵登お兄ちゃんを勘違いしたまま、捕まえたはいいけどどうしたらわからなくなって、とりあえず弟を自称ライバルに捕まえられてる様を召愛お兄ちゃん見せつけてやろうって感じだね。手紙の内容からして、あまり頭のいい人間じゃないし」
冷静に分析しながら鞠愛は続ける。
「で?この状況でどうするの?保護プログラムの制約は知ってるでしょ?僕ちゃん様たちみたいな“ヒーロー”“ヒール”“サポーター”のどれの役割にも属さない“こちら側”の人間は“ショー”に一切の接触はしてはいけない。例え、それが身内や友人が関与していても」
「…ッ」
テレビに目を向ければ憎たらしく不細工な面を愉快そうに歪ませるヒールに捕まる恵登は怯えることも無く叫ぶでもなく、ただじっとヒールを睨みつけていたが、ふと目が合ったヒールはそれが気に食わないらしく、恵登を睨みつけて屋上からビルの中に入っていき、画面から姿を消した。
「!…だからってこのままにできるかっ今何されてるかわかんないんだぞっ?恵登は俺の親友なんだぞ!」
自分の無力さに虫唾が走る。いつだって恵登は俺を助けてくれたのに、恵登に危険が迫ってるときに俺は…。
「俺は何もできないのか…っ」
「ひでくん。本当に恵登くんを助けたい?」
母さんがそっと肩に手置いて聞く。
「当たり前だろっ!」
「何をしても?」
いつもよりずっと真剣な顔で母さんが問う。
「…」
俺は無言で頷いた。
「それなら一つだけ、方法があるわ…」
母さんは静かにそう言った。
「決めるのは英雄よ」
その言葉にもう一度深く頷いてしまったことに、俺は後々一生分の後悔をすることとなる。
作品名:I hate a HERO!! 作家名:727