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星の降る夜

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 とぼとぼと、つきせは一人で星の海を、ただ当てもなくさまよっていた。
 このまま家に帰る気も起きなくて、ふらふらと。
 遠くには星の闇人が辺りをうろついている。
 暗い影を揺らめかせながら、不気味な咆哮を上げて星の海をうろつく化け物。
 明るい星を食らおうと虎視眈々と狙っているのだ。
 その咆哮は死人の最後の叫びのようで、つきせはそれがとてつもなく恐ろしかった。
 普段ならそんな所には絶対に近付きたがらないつきせだったのだが、行く当てもなくさまよっていたらいつのまにか近づいてしまっていたらしい。
「これからどうしようかな……」
 つぶやくと、それが聞こえたのか遠くにいた星の闇人の一匹が、つきせの姿をみつけてのそりとこちらへ向かってくるのが見えた。
 星狩りは星の闇人にとっては最大のごちそうだ。
 このまま逃げなければ、食べられてしまう。
「でも、それもいいかもしれない……」
 星使いからけいがの担当を外されてしまった。
 その後けいがに新しい星狩りが派遣されたのかどうかは分からないが、きっと近いうちにけいがは消えてしまうだろう。
 もう、つきせにはほかに何もない。
 何もやる気が起きなかった。
 ウォォォォン……
 星の闇人が鳴いた。
 反射的に身がすくむ。
 だがそのとき、つきせは唐突にあることに思い当たった。
 これが一番いい選択だっただったのではないだろうか、ということに。
 つきせは人の最後の叫びを聞くのが嫌だった。
 だからけいがの星を狩ることも嫌だったのだ。
 けいがの担当から外された今、もうあの苦しみの声を聞くことはない。
 それは、つきせにとって喜ぶべきもののはずだ。
 もう、嫌なことをしなくてもいいのだから。
 けいがも喜ぶだろう。
 彼は、死にたがっていた。
 死んで苦しみから解放され、新たな生を迎えることを願っていた。
 その長い間切望していた願いが、ようやくかなえられるのだ。
 喜ばないはずはない。
 だったら、これでいいではないか。
 そう、つきせは思った。
 けいがは自分の願いをかなえられて、つきせはあの叫びを聞かずにすむ。
 でも。
「そんな訳ない」
 つ、とつきせのほおを涙が伝った。
 そんな訳はないとつきせはその言葉を繰り返す。
 そんな単純なことではない。
 そんな嫌悪感からではない。
 と。
 最初は確かにそうだったかもしれない。
 けれど今は違う。
 他の星狩りたちは星を狩れないつきせを、無能者とばかにするか無視するかどちらかだったのに、けいがは笑って、そして怒ってくれた。
 呆れてもくれた。
 そんなのは、けいがだけだった。
 そのときのけいがの笑った顔。
 怒った顔。
 つきせはそれがとてもとても、言葉には表せないほどに、大切だったのだ。
 そんな大切なけいがを、つきせは失いたくはなかった。
 だから、どうしても狩れなかった。
 とっくに分かり切ったことだったのに、つきせは見失っていた。
 忘れては、いけないことのはずだったのに。
「ごめんね、けいが……っ」
 ぐいっとつきせは涙をぬぐい去って、にらみつけるように満点の星空を見渡した。
 幾千幾万の星々。
 その中にまだけいがの星があるならば、まだそこにかがやいているならば。
 つきせはどんな小さなかがやきも見逃すまいと目を凝らした。
 そこに星があることを祈って。
 北の空、西の空、南の空、そして東の空。
「あっ!」
 星は、存在した。
 小さな小さな星のかがやきが、そこにまだちゃんと存在していた。
 見つけたとたん、つきせは駆け出した。
 確かにけいがの星は存在していた。
 だがそれは今にも消え入りそうなほどに、弱々しかったのだ。
 行っても何もできないことは分かっている。
 もし別の星狩りがすでにいて、見つかってしまったら命令違反で重い罰を与えられるだろうと言うことも分かっている。
 それでも、つきせは走らずに入られなかった。
 ひたすら急いで星界を抜け、星の海をすべり降り、いつにないスピードで地上へと。
 間に合えと、心の中で強く願いながら。
作品名:星の降る夜 作家名:日々夜