キング
Prologue ジ・エンド
それはさながら一枚の絵画のような情景であった。
上空に目をやれば油絵具で塗ったキャンバスのような雲ひとつない青空を、一羽の白い鳥が悠々と旋回している。そしてその下には大通りの交差する位置にある広場と、緩やかな円を描いて集い、まるで円そのものが生き物であるかのように身動ぎもせずにただ沈黙する人の群れ。
群集の中央にいるのは、ギリシア彫刻のように精悍で若さに溢れているのに、どこか獣じみた印象のひとりの男である。金色に近い茶色の髪は少し長くなってきて視界の邪魔になってきたからか、前髪をあげて全体を撫で付けていた。窪んだ眼下と筋の通った鼻筋のゲルマン的な容姿の美しい青年だったけれど、そんなものよりも印象的なのは、強い意思を孕んだ青い瞳であった。まるで空のような青い瞳の男は、上空を舞う鳥とダンスを踊っているかのような呼応した動きで、優雅にかつ悠々と、足を前に進めた。
一歩、一歩。彼が歩くたび、群集もゆるゆると動く。白い鳥が舞う。彼の望みはいま、叶えられようとしていた。彼は成功を信じて疑っていなかった。まったく迷いのない確かな足取りで、あるく。あるく。コツコツと、石畳が音を立てる。
この男が、新しい王になるのか。つぶやいた青年がいた。悠々とあるく男と同じ色の瞳を持つ、美しい青年である。彼はひどく顔色の悪い青ざめた表情で、ぎりり、と唇を噛んだ。
「あいつが、王になり、彼女が女王になり、この国を治めるのか」
ただ固唾を呑んで見守る、どこか意思の欠落している群集たちの中にあって、その青年だけは違った。歩く男の顔を睨めつけて、獣のように低く唸った。
「あいつが、王になり、彼女がその横に立つだなんて」
小さな、小さな声だった。
「そんな未来は、嫌だ」